医師の働き方改革の概要と医療機関の法的対応

昨今、従業員の働き方改革が求められていますが、医療業界においても例外ではありません。医師にも働き方改革が求められています。

以下は、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(厚生労働省)における中間とりまとめ(令和2年12月22日作成)に基づく概要と、今後の医療機関の法的対応について、説明させていただいたものです。

 

1 医師の働き方改革の概要

医師の働き方改革とは、医師も労働基準法に従って働くことを意味します。具体的には、1日8時間、週40時間の労働時間を守ることであり、これを超える場合は、36協定の締結が必要となります。また、医師の時間外労働は、月に原則80時間が上限となります(罰則付き)。2024年施行予定です。

 

労働基準法に従って働くことは当たり前のことではないかと思われるかもしれません。しかしながら、医師の場合、一週間の労働時間が60時間を超える割合が、41.8%にものぼるといった調査もあり、これまで職場によっては、医師の長時間労働が常態化している実態がありました。

 

なお、上記の時間外労働のうち、当直は時間外労働に含まれますが、寝当直は対象外となる(労働基準法第41条第3号)ことに御注意ください。寝当直とは、ほぼ稼働しなくてもよい勤務形態で、労働基準監督署長の宿日直許可が必要となるものです。

 

 

2 医療機関に及ぼす影響

上記1のとおり、寝当直は時間外労働の対象外になることから、宿日直許可のない医療機関にとっては、直接的な影響が大きいことが予想されます。

 

また、労働時間管理は常勤元が行います。当然のことながら、労務管理は、非常勤医師を含めて行うことになるため、非常勤医師の多い医療機関に大きな影響を及ぼすことも予想されます。具体的には、時間外労働の枠である原則上限80時間/月の枠は、常勤元が優先して活用することになる結果、非常勤医師の引き上げが起こるおそれがあります。

 

 

3 医師の時間外労働の上限

医師の時間外労働の上限については、A水準、B水準、連携B水準、C水準の4つの水準があります。

 

A水準とは、医師の時間外労働の上限について、時間外労働が年960時間(≒週20時間)です。

B水準とは、地域医療確保(救急、在宅、へき地医療等)を担う医療機関を念頭においており、医師の時間外労働の上限について、時間外労働が年1860時間(≒週40時間)です。

連携B水準とは、地域医療提供体制(大学病院・地域医療支援病院等)を担う医療機関を念頭に置いており、医師の時間外労働の上限について、時間外労働が年1860時間(≒週40時間)です。

C水準とは、集中的技能向上(研修医や専門研修中医師の教育施設)を担う医療機関を念頭に置いており、医師の時間外労働の上限について、時間外労働が年1860時間(≒週40時間)です。

 

基本的には、A水準を守ることになりますが、2023年までに都道府県から認可を受けることで、B・C水準が適用されます。

 

 

4 医療機関が取り組むべき法的対応

では今後、医療機関が取り組むべき法的対応としては、どのようにすればよいのでしょうか。

B・C水準が適用されるには、2023年までに都道府県から認可を受ける必要がありますが、2021年2022年に指定要件を満たすように実績を積み上げる必要があり、時間があまりない状況です。

 

そこで、実際には多くの医療機関がA水準を目指すことになると思われます。

 

まずは、時間外労働時間の上限の計算に大きな影響がありますので、労働基準監督署長の宿日直許可の有無を確認してみてください。設立時は回復期であったものの急性期に変わってきた等の理由で申請を忘れていたり、かなり昔に申請したので詳細がわからないといったことがあり得ます。

 

すでにA水準を満たしている医療機関は、①36協定の実態に即した見直しと②医師雇用契約書の見直し・再締結や就業規則の変更が必要になると思われます。特に、②医師雇用契約書の見直しですが、年俸制を採用されているところが多いのではないでしょうか。このままですと、残業代の支払いが生じるおそれがございます。そこで、固定残業代制度の導入を検討される必要があります。

 

固定残業代制度のみなし残業時間ですが、今回の働き方改革の上限が、月80時間であることから、みなし残業時間も80時間に設定すれば現状を維持することができ、よいように思うかもしれません。

しかしながら、みなし残業時間を多く設定することは、無効になるおそれがあります(90時間に設定した固定残業代制度について、公序良俗に違反し無効と判断した裁判例があります)ので、御注意ください。

 

また、固定残業代制度を導入することは、労働条件の不利益変更にも該当します。そのため、固定残業代制度を導入する際の手順や制度設計については、別途ご相談ください。

 

また、A水準を満たしていない医療機関は、まずは時間外労働の削減計画をたて、医師の数を増やしたり、タスクシフティングやタスクシェア、医療クラークの積極的な利用を検討する等、A水準を満たすことを目指すようにしてください。

 

なお、当然ですが、労務管理の体制を整え、医師の勤務時間の管理を怠らないようにしてください。

 

 

5 まとめ

以上のとおり、医師の働き方改革についての現状について、ご説明させていただきました。時間外労働の削減計画の策定や実践、タスクシフティングやタスクシェア、医師の確保など、医師の働き方改革への課題は山積みだと思います。しかしながら、時代は確実に変化してきており、働き方改革の大きな流れが変わることはないでしょう。医療機関の皆様としては、古い慣習にしばられることなく、今回の改革をもって労務管理体制を整え、医師から勤務先として選ばれる医療機関を目指す機会にしていただければと思います。

 

※上記の説明は、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(厚生労働省)における中間とりまとめ(令和2年12月22日発表)に基づくものであり、今後変更されるおそれがございますことをご了承ください。

 

 

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