安全配慮義務
1.安全配慮義務とは
使用者の義務は、本来は賃金を支払うことにあります。しかしながら、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければなりません(労働契約法第5条)。使用者のこの義務を、安全配慮義務といいます。
使用者の帰責が原因で、労災事故や過労死事故が起きる等、労働者の生命、身体等の安全を害し、損害を与えた場合には、使用者は、安全配慮義務違反に基づき損害賠償責任を負うおそれがあります。
2.会社が負うリスク
使用者の帰責が原因で、労災事故や過労死事故が起きる等、使用者に安全配慮義務違反が認められた場合、使用者としては、①民事上の責任(安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任、使用者責任に基づく損害賠償責任)、②レピュテーションリスク、といったリスクを負うおそれがあります。
②レピュテーションリスクとは、たとえば、過労死事案を例にとると、マスコミ報道がなされたり、会社の名前が事件名になることにより、過労死が出るほどの「ブラック」企業なのかと世間から思われ、企業のイメージダウンにつながるおそれがあります。
なお、民事上の責任を問われるのは会社だけではなく、取締役も同額の損害賠償を請求されるおそれがあります(会社法429条1項)。
なぜなら、労使関係は企業経営に不可欠であり、取締役は会社に対する善管注意義務として、労働者の安全に配慮する義務を負うからです。
3.損害賠償額の計算
安全配慮義務違反の損害賠償額の計算方法は、交通事故による損害賠償と同じ手法をとります。具体的な損害としては、①治療関係費・交通費、②休業損害、③入通院慰謝料、④後遺障害慰謝料、⑤逸失利益があります。なお、②と③は、長期休職の場合、高額になる傾向にあり、④と⑤は、死亡・重度障害の場合、高額になる傾向にあります。
特に近年は、過労死・過労自殺の事案において、損害賠償額が高額になる傾向にあります。
なお、労災給付等があれば損益相殺することを忘れないでください。労災給付とは、①療養補償給付(治療費・交通費)、②休業補償給付(休業損害)、③障害補償一時金・障害補償年金・遺族補償年金(逸失利益)を意味します。
特に、③障害補償年金・遺族補償年金については、実際に支払われた金額ではなく、前払一時金の最高限度額(1000日分)について、損益相殺の主張ができますので、注意が必要です。また、特別支給金は控除が出来ませんので、この点もご注意ください。
安全配慮義務の問題についてお困りの経営者の方は、ぜひ一度労務問題に詳しい弁護士にご相談ください。