「問題社員と面談する際の留意点」
1 はじめに
従業員による問題行動が発覚した場合には、使用者として、円滑な事業運営の観点から適切に指導等を行うべき場合は少なくありません。
以下では、このような指導にあたって行われる面談の留意点について、解説していきます。
2 面談の事前準備
(1)事実関係の確認
問題行動の有無や経緯・態様等について、客観的な記録や他の従業員の認識等を確認し、事前に可能な範囲で調査・確認する必要があります。
事実関係の確認が十分でない場合には、そもそも指導に合理的根拠がないものとして違法と評価されるリスクがあります。
(2)指導の方向性の確認
指導の目的・方法等について、必要に応じて専門家等とも協議するなどして、合理的に説明できるよう事前に準備しておく必要があります。
事前に指導の内容等を十分に検討することなくその場の思い付きで発言してしまうことで、後に「威圧的・侮辱的な指導を受けた」などと主張されて紛争に発展する法的リスクがあります。
また、不用意な発言により当該従業員の無用な反発を招くことで、かえって問題行動を改善させることが困難になったり、指導の正当性に疑義を招くことで他の従業員の労働意欲や職場の規律に悪影響を及ぼすなど、事業運営上のリスクもあります。
3 面談の方法等
指導としての必要性及び相当性を欠く場合には、面談における使用者の言動が違法と評価される可能性があります。
(1)面談時間
指導が長時間にわたる場合には、必要性や相当性を欠くものとして、違法と評価される可能性があります。
例えば、業務上のミス等への叱責に1時間以上をかけるような指導は、相当性を欠いた制裁として違法と評価される可能性があり、注意や叱責による指導はせいぜい30分以内を目安にすべきであると考えられます。
他方、対象の従業員が時間をかけて主体的に弁解しているような場合に、形式的に30分で面談を打ち切らなければならないというわけではなく、丁寧に弁解を聴取した結果、面談時間が1時間にわたったからといって、直ちに違法と評価されるわけではありません。
(2)面談場所・体制
特段の事情がない限り、他の従業員等の面前で指導を行うのではなく、別室での面談を行う必要があります。
対象の従業員の名誉やプライバシーをいたずらに害するような指導は、それ自体が相当性を欠くものとして違法との評価を受けるリスクがあるとともに、他の従業員からも反発を招くおそれがあります。
基本的には対象の従業員1人に対して2、3名程度で面談を行うのが望ましく、必要以上に多人数で面談を行うと、威圧的な指導として違法とされる可能性があります。他方で、指導を行う側が1名のみでも、指導の適切さや指導を行う側の安全の確保の見地から問題がありうるため、望ましいとはいえません。
(3)聴取・指導の方法
まずは、対象の従業員の弁解を充分に聴取する必要があります。
弁解の機会を与えずに一方的に事実を決めつけるような言動を行った場合には、相当性を欠くものとして違法との評価を受ける可能性があります。
更に、対象の従業員が問題行動を認めている場合や、弁解が明らかに不合理な場合であっても、暴力はもちろん、怒鳴る、感情的になって罵るといった行動は、指導にあたって必要とは認められがたく、絶対に控えなければなりません。あくまで、問題行動があったことや不合理な弁解に終始していること等を根拠とする懲戒等の措置を冷静に検討する必要があります。
(4)録音
面談の態様等に問題がなかったことを事後的に検証・説明できるよう、面談時の状況は録音して証拠化しておく必要があります。
録音にあたっては、特段の事情がない限り、対象の従業員に対して録音することを予告しておくべきです。
合理的な理由なく無断録音を行った場合、それ自体が違法と評価されたり、当該録音データ等が裁判における証拠として認められるか否かという別個の法的問題を生じさせるリスクがあります。
4 最後に
以上のように、従業員への指導は、法的知識もふまえた上で、慎重に準備・実行する必要があります。
もし、「従業員の問題行動に困っているが、どのような指導であれば法的に許容されるのか不安」といったことでお困りなら、使用者側の労働問題に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。