「非違行為」を行う問題社員への対応方法
目次
1 はじめに
法令や就業規則等に違反する行為は、「非違行為」と呼ばれます。具体的には、以下のような行為を「非違行為」といいます。
この記事では、従業員の行う非違行為の内容や、それに対する対処方法について解説します。
2 非違行為の種類
従業員の非違行為は、就業中の非違行為と私生活中の非違行為に分けることができます。
⑴ 従業員の非違行為としては、以下の例が挙げられます
①従業員が他の従業員に対してセクハラ行為を行った。
②上司からの指導に従おうとせず、勤務態度が不良である。
③パワハラを繰り返しており、周囲の従業員を委縮させている。
⑵ 私生活中の非違行為としては、以下の例が挙げられます。
①勤務時間外における犯罪行為(暴力、窃盗、強制わいせつ、飲酒運転など)
②SNSへの不適切な投稿
③社内での不倫
私生活上の非違行為は、会社の企業秩序を直接害する恐れが低いため、原則として懲戒等の処分をすることはできません。しかし、事業活動に直接関連を有していたり、会社の社会的評判を害する場合には、私生活中の行為であっても、企業秩序を害し懲戒処分等の対象になることもあります。
3 非違行為に対する懲戒処分
非違行為に対しては、当該行為が就業規則上の懲戒事由に該当する場合、適正な手続きを踏んで事案の軽重に応じて、戒告、譴責、減給等の懲戒処分を行うことが考えられます。
ただし、懲戒解雇のハードルは後述の普通解雇と比べても高く、多くの場合では難しいです。
4 解雇のハードルは極めて高い
他の従業員に対する悪影響もあることから、「非違行為」を繰り返す従業員には懲戒処分を行うだけでなく、辞めてもらいたいと思われる企業様もいらっしゃるかと思います。しかし、現在の日本では、従業員が「非違行為」を行ったからといって、安易に解雇できないのが現実です。
従業員の普通解雇については、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、権利を濫用したものとして解雇が無効となります。一見、抽象的な基準であり、どの程度の理由で解雇が認められるのか分かりにくいと思いますが、判例が考える解雇が合法となる基準は極めて厳しく、実際に解雇が有効となる事例はごく稀です。
解雇のハードルを示す一例として、高知放送事件という裁判例があります。この事案では、アナウンサーが2週間の間に2度寝坊により遅刻してニュースを定時に放送できないという事態が発生しました。さらに、アナウンサーが2度目の放送事故について事故報告していなかったため、後日、上司が事故報告書の提出を求めたところ、事実と異なる内容の報告書が提出されました。会社が、これらの非違行為を理由にアナウンサーを普通解雇したところ、解雇の有効性が争われました。
裁判所は、寝過ごしという過失行為によるものであり悪意でも故意でもないこと、寝過ごしによりニュースの空白時間はさほど長時間ではないこと、会社側が朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと等から、解雇を無効と判断しました。
以上の裁判例のように、従業員が短期間に「非違行為」を繰り返したとしても必ず解雇が有効になるわけではありません。むしろ、解雇が有効となるのは、重大な違反行為を行ったうえに今後改善の見込みもないような例外的な事例だけなのです。実際に解雇する場合には、専門家による慎重な判断が必要になります。
5 実効的なのは退職勧奨
安易に解雇の手段を取ることは出来ないとして、従業員を辞めさせるために他にどのような方法が考えられるでしょうか。
実効的な手段としては、退職勧奨が考えられます。退職勧奨とは、会社から従業員に対し自主的に退職するよう働きかけることです。退職勧奨に従業員が同意して退職すれば、退職の有効性が認められます。もっとも、退職勧奨は任意に退職を促す行為ですので、退職を強要するようなことは出来ません。従業員に退職勧奨を行う際は、後日、退職を強要されたと言われないように注意して進める必要があります。
退職勧奨の流れとして、まず従業員との面談を行います。面談に立ち会う会社側担当者は数名程度がよいでしょう。人数が多すぎると従業員を威圧したと判断されるおそれがありますし、一人だと面談でのやり取りを歪曲されるおそれがあります。また、面談時間が長くなりすぎたり、面談回数が多くなりすぎたりしないように注意しましょう。面談があまりに長時間・多数回に及ぶと、たとえ退職の合意を得ることが出来ても、退職への合意を強要されたと主張され無効になる可能性があります。
面談では、従業員への退職条件を提示します。条件としては、退職金の上乗せや転職先の紹介といったことを提示するのが一般的です。条件について折り合いがつけば、従業員の退職に関する合意書を作成することになります。合意書には、退職日や退職金の金額・支払時期等を記載するだけでなく、必要に応じて秘密保持義務や競業避止義務について記載する場合もあります。
6 最後に
以上のとおり、従業員を辞めさせるうえで最も有効なのは、退職勧奨です。もっとも、退職勧奨を行う際も、あとで有効性が問題とならないように、面談の進め方、合意書の記載内容には注意が必要です。問題ある従業員にお悩みの方は、是非、専門家にご相談のうえで対応を検討されることをおすすめします。