賞与の支給日在籍要件の有効性

1.はじめに

賞与(ボーナス)の支給要件として、支給日に在籍していることを定めている企業様も多いのではないでしょうか。たとえば、「賞与は、支給対象期間に勤務し、支給日に在籍している者に対して支給する。」というような規定を設けている場合です。このような要件を、「支給日在籍要件」といいます。
このような支給日在籍要件は有効なのでしょうか。

2.支給日在籍要件自体の有効性

賞与には、賃金の後払い的性格がありますので、支給対象期間にきちんと労働したにもかかわらず、支給日に在籍していないというだけで賞与が支給されないのは、賃金の全額払いの原則(労働基準法24条1項)に反し無効だという見解もあり得ます。
この点、最高裁判所は、支給日在籍要件を有効と認めています(最判昭和57年10月7日集民137号297頁・大和銀行事件)。理由は、以下のとおりです。

・会社にとっては、賞与の支給対象者を一定の明確な基準で確定する必要がある。
・支給日に在籍しているという要件は、支給対象か否かが労働者にとっても明確で、労働者にとって不測の不利益を与えるものでもない。労働者は、支給日まで在籍するかどうかを、予見することができる
・賞与には、賃金の後払い的性格だけでなく、今後の労働に対する期待を込める勤労奨励的な性格もある。

 

3.支給日在籍要件を適用することの有効性

(1)支給日在籍要件の機械的な適用はNG

このように、支給日在籍要件というルール自体は有効と認められていますが、そのルールを個別の事案に当てはめることが無効と判断される場合があります。支給日在籍要件が有効な理由の1つに、支給日まで在籍するかどうかを労働者が予見できるというものがありました。そのため、支給日に在籍しないことを労働者が予見できない場合にまで支給日在籍要件を機械的に適用すると、その適用が無効と判断されることがあるのです。

(2)支給日在籍要件の適用を無効と判断した裁判例

・東京高判昭和59年8月28日判時1126号129頁
例年の支給時期から2カ月以上にわたり支給が遅延した事案で、本来の支給日に在籍していた労働者は、本来の支給日から実際の支給日前までの間に退職したとしても、賞与の支給を受けることができると判断しました。

・東京地判平成12年2月14日労判780号9頁
団体交渉の妥結の遅れによって賞与支給日が遅延した事案で、本来の支給日に在籍している労働者は、実際の遅延した支給日に在籍していなくても、賞与の支給を受けることができると判断しました。

・東京地判平成24年4月10日労判1055号8頁
支給日前に会社が整理解雇した事案。整理解雇は労働者に帰責事由がなく、もっぱら使用者側の事情により解雇されるものなので、支給日在籍要件を適用して賞与を支給しないことは公序良俗違反により無効と判断しました。

・松山地判令和4年11月2日判時2583号79頁
支給日の20日前に労働者が病死した事案で、支給日在籍要件を適用して遺族に賞与を支払わないことは、公序良俗に反し無効と判断しました。

(3)支給日在籍要件の適用を有効と判断した裁判例

・最判昭和60年11月28日最判集民146号165頁
支給日前に契約期間が満了した嘱託社員について、支給日在籍要件を理由に賞与を支給しないことを有効と判断しました。

・東京地判平成8年9月27日労判707号74頁
支給日前に普通解雇された労働者について、支給日在籍要件を理由に賞与を支給しないことを有効と判断しました。整理解雇と違い、普通解雇は労働者に帰責性がある、というのがポイントです。

・東京高判平成29年12月13日労判1200号86頁
支給日前に定年退職した労働者について、支給日在籍要件を理由に賞与を支給しないことを有効と判断しました。

・神戸地判平成15年2月12日労判853号80頁
支給日前に任意退職した労働者について、支給日在籍要件を理由に賞与を支給しないことを有効と判断しました。

4.まとめ

以上の通り、支給日在籍要件というルール自体は有効ですが、そのルールを機械的に当てはめると、事案によっては無効になる場合があります。その際の判断ポイントは、支給日在籍していないことを労働者が予見できるかどうかです。
支給日在籍要件の適用について、判断に迷われた企業様は、ぜひ一度、労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。

 

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