運送業に特有の未払い残業代請求への対処法

1.運送業において未払い残業代請求が増えている理由

 最近、運送業の経営者から未払い残業代請求のご相談を受けることが増えました。複数のドライバーから一斉もしくは次々に請求されたり、弁護士やユニオンを介して請求されたり、その方法は様々です。

 なぜ、運送業において未払い残業代の請求が増えているのでしょうか。そこには、次のような運送業界特有の事情が影響しているものと思われます。

 

① 離職率が高い

 在籍しながら会社に残業代を請求するのは実際にはハードルが高いです。しかしながら、運送業は人手不足であり、退職しても次の就職先が早期に見つかるといった事情から、他の業界に比べ離職率が高く、自ずと残業代を請求するハードルも低くなる傾向にあると考えられます。

 

② 労働時間(拘束時間)が長時間である 

 長距離トラックの場合、そもそも走行距離の長さに比例して労働時間も長くなりがちです。また、渋滞が予測できないので、荷物の積み下ろし開始時刻に間に合うように早めに出発したり、荷物の積み下ろしの順番を待っている時間が長くなったりしがちです。

 このように労働時間がどうしても長時間になりがちであることから、残業代が発生しやすい労働環境にあります。

 

③ 労務管理が適正になされていない会社が多い

 人手不足で労働時間管理まで手が回らなかったり、そもそも賃金規則等の規程が不十分である会社が多い傾向にあります。

 

④ タコチャート紙等労働時間の客観的資料がある

 労働者側にとって、タコチャート紙やデジタルタコチャート等、労働時間の立証が容易な客観的資料がそろっていることも残業代を請求しやすい理由の一つといえるでしょう。

 

⑤ 運賃が低額に抑えられがちである

 業界の競争が厳しく運賃が低額に抑えられていることが多いため、賃金を抑えざるをえない事情があり、そのことが労働者に未払い残業代を請求しようと考える動機づけの一つになるものと思われます。

 

⑥ 定額残業代を導入している会社が多い

 時間よりも、運んだ距離・重量が重視されるため、定額残業代に馴染みやすい傾向にあるものの、定額残業代の制度に不備があったり、適切に運用されていなかったりすることで、かえって未払い残業代が発生しやすい理由の一つにもなっています。

 

2.労働審判・訴訟での対応方法

 示談交渉が決裂し、労働審判や訴訟へ移行した場合に、労働者側からよく出される主張とそれに対する会社側の対応方法について、説明します。

(1)労働者側からよく出される主張

① 手待ち時間は労働時間である

 いつ荷物の積み下ろし等が始まるか分からず、労働から解放されていないことから休憩時間ではなく労働時間にあたるといった理由です。

② 早く出発した時刻から労働時間になる

 会社から遅刻するなと言われているため、早く出発せざるを得ないという理由です。

③ タイムカードの打刻時刻が終業時刻である

 帰庫した後も車両整備等があり、労働時間としては実際に乗車している時間よりも長いことから、タイムカードの打刻時刻が終業時刻であるといった主張です。

 

(2)会社側の反論

 では、上記(1)の労働者側からの各主張に対して、会社側はどのように反論していけばよいのでしょうか。

① 手待ち時間は労働時間であるとの主張に対して

 この主張に対して、会社側の反論としては、たとえば、荷物の積み下ろしは自分では作業をしないこと、寝台ベッドで寝ることができること、積み下ろしの開始時刻が決まっており開始時刻までは自由にしてよいこと、運転席から離れることができること等から、労働時間ではなく休憩時間であると言えることが考えられます。

② 早く出発した時刻から労働時間になるとの主張に対して

 この主張に対して、会社側の反論としては、会社は出発時刻を指定しており、それ以前に来る必要はないし、来てもらっても知らない等が考えられます。

③ タイムカードの打刻時刻が終業時刻であるとの主張に対して

 この主張に対して、会社側の反論としては、基本的には車が出発してから帰ってくるまでが労働時間であること、清掃の時間がかかりすぎ、おしゃべりをしていること等が考えられます。

 

(3)まとめ

 実際には会社側の上記(2)の反論は、反証が難しく、判決・審判では認められない可能性が高いかもしれません。

しかしながら、これらの反論・反証をすることにより、和解金の金額等に影響する可能性がありますので、あきらめずに粘り強く反論・反証活動をしていくべきでしょう。また、色々なパターンの未払い残業代の試算表を持参することも和解金の金額に影響する可能性があります。

 和解の段階においては、裁判官は会社側の言うことに耳を傾けてくれる傾向にあると思われます。制度の趣旨を説明したり、経営者の理念や考え、経営状態等を誠実に伝えることで、会社が決してブラック企業ではないことを理解してもらうように努めましょう。

 

3.行政への対応

 労働者側の動向によっては、労働基準監督署のほかに、陸運局の指導についても特有の対応を迫られることがあります。

 

4.まとめ

 未払い残業代の問題は、請求してきた労働者単独の問題というより、会社の労務管理全般の問題です。請求してきた労働者との事件が解決すれば終わりとせずに、これを機に賃金規程等を整備し、労働時間を正しく管理するようにしていくべきでしょう。

 

 運送業を営む経営者の方で未払い残業代請求の問題についてお困りの方は、ぜひ一度この問題に詳しい弁護士にご相談ください。

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