発達障害を持つ従業員への対応のポイント

〇はじめに

「問題をよく起こす従業員だと思っていたら、発達障害を持っていることが分かった。」ということはないでしょうか。この記事では、発達障害を持つ従業員に対応するときのポイントを解説します。

〇発達障害とは

発達障害とは、発達障害者支援法2条1項において、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
この定義にも表れているように、発達障害と一口に言っても、いくつか種類があり、種類ごとに特性も異なります
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意、多動・多弁、衝動的行動等の特性があります。職場では、ケアレスミスや忘れ物が多い人と扱われているかもしれません。
自閉症スペクトラム症(ASD)は、コミュニケーションや人の気持ちを考えることが苦手等の特性があります。仕事上は、空気が読めない人と扱われているかもしれません。
学習障害(LD)とは、読む・書く・計算等の特定の学習に困難がある障害です。

〇障害者雇用促進法が求める合理的配慮

障害者雇用促進法36条の3は、「事業主は、……その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。」と規定しています。つまり、法は、企業に対し、過重な負担とならない範囲での障害者に対する配慮、すなわち合理的配慮を求めているのです。
ここでいう障害者には、発達障害者も含まれます。したがって、企業は、従業員が発達障害を持っている場合、その発達障害の特性に応じた合理的配慮を提供しなければならないのです。
合理的配慮の具体例については、厚生労働省が公表している「合理的配慮指針事例集」も参考にしながら、自社の規模や業務内容、財務状況等を踏まえて検討してください。たとえば、以下のような配慮が考えられます。

・(発達障害の影響で、他人からの視線があると集中できないという場合に、)他人からの視線を遮断するた      めの衝立を設置する。
・作業指示を一つずつ出す。
・口頭で説明するのではなく、マニュアルを作成する。

〇発達障害を持つ従業員の解雇

発達障害を持つ従業員の問題行動に我慢できず、企業が当該従業員を解雇する場合があります。裁判例をもとに、発達障害を持つ従業員を解雇する場合に特有の注意点について解説します。

【O公立大学法人事件(京都地判平成28年3月29日労判1146号65頁)】
大学法人は、大学教員が、①ミスをした生協職員に対して罵声を浴びせて土下座させたこと、②当該大学教員に対して暴力をふるった男子学生を刑事告訴したこと、③精神科の救急外来に来訪した際に果物ナイフでリストカットを行い銃刀法違反で現行犯逮捕されたこと、の3つを主たる理由として、当該大学教員を解雇しました。裁判では、その有効性が争われました。

裁判所は、上述した障害者雇用促進法等の趣旨を踏まえ、「障害者を雇用する事業者においては,障害者の障害の内容や程度に応じて一定の配慮をすべき場合も存することが予定されているというべきである」と判示しました。そして、大学法人側が当該大学教員の主治医に対する問い合わせを一切行っていないことを問題視しました。また、アスペルガー症候群の特性として、自身の問題行動について「的確な指摘を受けない限り,容易にその問題意識が理解できない可能性が高かった」と述べ、大学法人側が当該大学教員に対する指摘等を行っていないことも問題視しました。そのうえで、本件の解雇は無効と判断しました。
この裁判例から学べることとして、企業側は、発達障害を持つ従業員にも伝わるような方法で指導等を繰り返し行う必要があるということです。こうした指導等を行わずにいきなり解雇してはいけません。「そんなこと常識で分かるだろ。」ということも丁寧に説明し、指導する必要があります。また、こうした指導等を行う際に、もし対象従業員に通院歴がある場合は、主治医への問い合わせも行い、どのような説明方法であれば伝わりやすいか等の助言を受けることも必要でしょう。

〇まとめ

以上の通り、発達障害を持つ従業員への対応には、特有の注意点があります。発達障害を持つ従業員への対応でお困りの方は、ぜひこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。

 

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