労務監査(労務DD)サービスについて
目次
第1 労務DD(デューデリジェンス)とは
デューデリジェンスという単語は、「Due(当然の、正当な)+Diligence(精励、努力)」という意味を指します。デューデリジェンスというとM&A(企業買収や合併)やIPO(株式上場)を行う際に、財務・法務など問題点を洗い出すために行われるイメージがあるかもしれませんが、近年では「労務デューデリジェンス」も重要視されています。以下労務DDについて詳述していきます。
第2 労務DDの必要性
1 M&Aにおける労務DDの必要性
M&Aでは、買い手企業が売り手企業の持つリスクを確認する必要があります。M&Aは、買い手企業が企業価値を上げるために行うものとなります。そのため、買収することにより企業価値が下がる可能性のあるリスクがどのくらい潜んでいるかという調査を買収前に行うケースがほとんどの事案で見受けられます。このようなリスク調査を「デューデリジェンス」といい、法務・財務などとならび労務面の人事制度・就業規則の内容や運用実態を探る労務デューデリジェンスも行う必要があります。
例えば、残業代の未払いなどは表面化されていない債務がある場合でそれを精査せずに買収したら、後々買い手企業が残業代を支払う必要が出てきてしまいます。
残業代を支払うだけではなく、残業代を支払わないブラック企業としてのうわさが立てば、買い手企業の企業価値や社会的信用を落とすリスクがあるので、買収前にきちんと調査する必要があります。
また、残業代の未払いは労使トラブルに発展する可能性もあります。従業員から労働審判や訴訟を起こされることになれば、企業の財務内容に影響を及ぼすだけではなく、対応する会社の人的対応に関するコストも発生します。
このようなリスクを避けるために、労務面のトラブルやリスクがないかを調査する必要がありますし、リスクがある場合は対処が許容範囲内か、リスクも含めて売り手企業の価格は妥当かを確認する必要があるのです。
2 IPOにおける労務デューデリジェンスの必要性
IPOとは、未上場の企業が、新株の発行(公募増資)や売り出しを行い、証券取引所に上場することをいい、公開された株式は投資家が市場で売買するようになります。
IPO時には、企業の従業員の状況について有価証券報告書の作成が必要とされており、①人事政策②直近3年間における企業グループの従業員異動の状況③出向者の状況④時間外労働の状況等を明らかにし、報告書を作成しなければなりません。
そのため、IPO時にも労務デューデリジェンスを行い、上場する基準に達しているか否か把握する必要があります。上場するに際しては厳しい基準をクリアしなければなりませんので、予め企業に問題がないか把握し、改善しておくことで円滑に上場への手続きを進めることができます。
第3 労務デューデリジェンスを行うタイミング
1 M&A
M&Aを行う際の一般的な流れは以下のとおりになります。
売り手企業によるM&A実施に際しての意思決定
↓
M&Aアドバイザー、コンサルティング会社等と契約締結
↓
買い手企業及びその候補企業の検索
↓
売り手企業及び買い手企業の面談や交渉
↓
基本合意契約の締結
↓
デューデリジェンスの実施
↓
最終契約の締結と契約金の支払い
↓
事業統合及び事業の開始
以上が一般的な流れとなります。売り手企業と買い手企業で基本合意契約を締結した後最終契約に向けてデューデリジェンスを行い、実際に契約を締結するか否か見極めます。労務面においてデューデリジェンスを行い、問題があればその時点でM&Aを白紙に戻したりする判断ができますので、買い手企業が損害を被らないためにも労務デューデリジェンスは行う必要があると考えます。
2 IPO
IPOを行う際には主幹事証券会社や証券取引所が上場する企業として体制が整っているか否かを調査します。そのため上場申請時までの段階でデューデリジェンスを行っておく必要があります。IPOを行う場合、まずはショートレビュー(監査契約前のチェック)を行い、そのあとにデューデリジェンスをします。直前々期に入る前に、全ての規程・運用をチェックして適法化しなければいけないので、労務デューデリジェンス及び問題解決の対応が遅れてIPOも遅れてしまうという事態は避けなければなりません。
第4 労務デューデリジェンスの主な項目
1 会社風土
経営理念や社風、組織体制などを調べます。ここでМ&A後も統一した方針で経営できるか否か判断していきます。
2 雇用
労働契約の整備、雇用形態、賃金などを調査します。どのような雇用形態の従業員がいるのか、適切な賃金額か等を見ていきます。
3 労使協定
締結されている協定の有無、労働者の代表選出に問題がないかなどを調査していきます。
4 労働保険、社会保険
保険の適用がなされているか、適切に計算されているかなどを調査します。
5 労働時間・休暇制度
変形労働時間制や裁量労働制が導入されているか、時間外労働の把握や有給休暇制度の取得状況等を調査していきます。特に時間外労働につきましては、適切に労働時間が反映されているのか、サービス残業がないか否かを調査していくとともに割増賃金が適切か否かという点も調査していきます。
6 賃金・退職金制度
賃金水準の確認や退職金制度の有無を調査していきます。М&Aでは買収後に2社の賃金をできる限りあわせるため、適切に調査する必要があります。
7 ハラスメント
今までにハラスメント行為によりトラブルがあったか否か調査していきます。またハラスメント防止策が徹底されているか、仮にハラスメントが起きてしまった場合の通報窓口の有無も調査します。
8 解雇・懲戒
今までに解雇された従業員はいるか等も調査の対象となります。
第5 労務デューデリジェンスの進行
1 資料データの提出
労務デューデリジェンスの実施が決まったら対象企業に対し、法定帳簿、法定書類、就業規則、労働契約書等の書類を提出するよう求めていきます。
2 資料の精査
提出された資料に基づき、上記の項目について資料を確認し、調査していきます。対象企業が他企業と締結している契約書も確認し、契約書に問題がないか、対象企業にとって不利な条項はないか等も調査します。
3 ヒアリング
提出された資料のみならず、対象企業の担当者へ直接気になる点や確認したい事項を聞き出すことになります。
4 現地調査
実際に対象会社へ赴き、社外秘の資料等について調査します。現地調査を行う場合、従業員に内密にして進行するデューデリジェンスもあるため、休日に行うなど配慮することもあります。
5 問題点の整理
資料やヒアリングによって発覚した問題があれば整理していきます。
その上で、問題点も含め全体的な報告書を作成していきます。
6 報告会
上記で作成した報告書に基づき、デューデリジェンスの結果を報告します。
第6 まとめ
以上が労務デューデリジェンスやIPOの流れや調査事項等になります。対象会社から提出される資料はとても多く、専門家の判断が必要な場合があります。М&Aは買い手企業にとって潜んでいるリスクに気付かず進めてしまう場合があり、買収後に思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあります。М&AやIPOを検討されている経営者様におかれましては、少しでもリスクを減らすため、専門家に相談しながら手続きを進めていくことをお勧めします。