従業員の引き抜きが発生したら?企業が弁護士に相談すべき理由と法的対応を解説

従業員が突然退職し、競合他社へ転職する――そんな「引き抜き」が発生すると、企業には人材流出や営業秘密の漏洩といった深刻なリスクが生じます。
本記事では、引き抜きがどのような場合に法的問題となるのか、発覚時に企業がとるべき対応、そしてトラブルを未然に防ぐための対策について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

1.引き抜きとは?

「引き抜き」とは、他社の従業員に対して、自社に転職するように働きかける行為をいいます。競合他社との間で優秀な人材を奪い合う現代のビジネス環境において、引き抜き行為は珍しいものではありません。
職業選択の自由が憲法で保障されていることから、従業員が自ら転職を選ぶこと自体は、何ら違法なものではありません。しかし、引き抜きの際の働きかけや勧誘の手段・内容によっては、当該引き抜きが違法であると判断される場合があります
そのため、引き抜きが発生した際には、法的観点から事案を分析し、適切な対応をとることが重要です。

2.従業員の引き抜きが法的に問題となるケースと要件

(1)不正競争防止法違反
企業の営業秘密(顧客リスト、価格表、設計図など)を、元従業員が転職先企業に持ち出し、それを利用した場合、不正競争防止法違反(同法2条1項4号~10号)に該当する可能性があります
仮に転職先の企業が営業秘密の性質を知っていながら、それを使用・取得した場合、その企業も「共同不法行為者」として損害賠償責任を問われるおそれがあります。
(2)在職中の勧誘行為と信義則違反
在職中の従業員が、同僚を転職先企業に誘うなどの勧誘行為を行うことは、雇用契約上の誠実義務や会社への忠実義務(民法第623条)に反する行為とされ、不法行為と認定されるケースがあります。
特に、経営幹部やマネージャークラスの従業員が中心となって複数名を同時に引き抜いた場合には、信義則違反として損害賠償の対象となる可能性が高くなります。
(3)秘密保持契約や競業避止義務違反
従業員と企業の間で秘密保持契約(NDA)競業避止条項を締結していた場合、それに違反して退職後に競合企業へ転職し、業務上知り得た情報を使用・漏洩した場合は、契約違反として損害賠償請求の対象となります。
裁判所は競業避止義務について、労働者の職業選択の自由とのバランスを考慮しつつ、義務内容が「必要かつ合理的」であれば有効と判断しています

3.引き抜きが発覚した際に企業が取るべき対応

引き抜きが判明した場合、企業としては次のような対応が求められます。
(1)事実の確認と証拠の確保
まず、誰が、いつ、どのように勧誘されたか、また誰が引き抜いたか等の事実関係を把握します。具体的には、メール、チャット履歴、会議録、退職面談記録などの証拠を保全することが重要です。
(2)弁護士への早期相談
引き抜き行為が違法か否かは、事実関係の精査と法的評価が不可欠です。弁護士に相談することで、対応可能な請求手段(損害賠償、差止請求など)や、交渉の進め方を明確にできます。
相手企業への内容証明郵便による警告書送付や、仮処分申立の検討も、弁護士主導で行うことが望ましいでしょう。
(3)損害の算定と再発防止措置の検討
引き抜きにより取引先を喪失した、営業秘密が流出したといった具体的な損害が確認された場合には、損害額を算定し、適切な賠償請求を行うとともに、社内の情報管理体制の見直しを進める必要があります。

4.トラブルを未然に防ぐための体制づくり

引き抜きによるトラブルを予防するためには、以下のような社内整備が有効です。
(1)秘密保持契約・誓約書の徹底
入社時・退職時に、秘密保持義務や営業秘密の取扱いに関する誓約書への署名を徹底しましょう。また、競業避止義務については、役職者や営業担当者など、情報へのアクセス権がある者を対象に導入することが推奨されます。
(2)社内規程の整備と情報管理の強化
就業規則等の社内規程において、営業秘密の定義や情報漏洩の禁止を明記するとともに、パスワード管理・アクセス制限・持出禁止の技術的措置を講じることで、リスクを減らすことができます。
(3)教育と意識付け
定期的なコンプライアンス研修を通じて、営業秘密の重要性や引き抜きに関する法的リスクを周知徹底することも、未然防止に効果的です。

5.まとめ

従業員の引き抜きは、企業にとって人材流出や情報漏洩という深刻な損害をもたらす可能性があります。引き抜き行為が法的に違法となるかどうかは、個別の事情によって判断されるため、専門的な視点での分析が不可欠です。
引き抜きが疑われる事態が発生した際には、早期に弁護士へ相談することで、損害拡大を防ぎ、適切な対応につなげることができます。また、平時から契約書や規程の整備、教育体制の強化など、予防措置を講じておくことも重要です。
当事務所では、引き抜き対応に関する初期相談から法的措置の実施、再発防止のための社内制度構築支援まで、企業の皆様を総合的にサポートいたします。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

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