運送業における同一労働同一賃金

1.同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは,正社員と非正規社員との不合理な待遇格差を是正することをいいます。近年最高裁平成30年6月1日判決のハマキョウレックス事件や長沢運輸事件など,運送業に関わる方の裁判例が出てきております。これらの裁判では非正規社員の方が原告となり,正規社員との基本給や手当の格差が不合理であることを主張し,争点となっております。

 

2.基本給について

(1)基本給につきまして,同一労働同一賃金のガイドラインに基づきますと,①職務内容職務内容・配置の変更範囲そのほかの事情に基づき,基本給に正社員と非正規社員との間に差があることが不合理かどうか判断されていきます。

 

(2)①と②が正社員と非正規社員とで同じであった場合,同一の待遇が求められるため基本給に差異があることは不合理であると判断される可能性があります。もっとも,成果・能力・経験等により基本給に差を設けている場合には不合理な取り扱いには該当しないとされております。

 

(3)①②③が正社員と違う場合,①ないし③を考慮し,「不合理」な待遇差は禁止されています。

では,いかなる場合に不合理となるのかという点ですが,現行の規定では明確になっていません。

そこで同一労働同一賃金のガイドラインにおいて判断要素等が示されるようになりました。具体的には,仕事内容,責任範囲,異動・転勤の有無,昇進の有無・範囲等の差異があることを理由として基本給に差異を設けることは適法とされています。しかし,企業側には,仕事内容等の「差異」を職制や社内規程等により明確に説明できることが求められています。また,過去の裁判例では,単に社内規程上の違いのみではなく,実際の運用にも着目して判断がなされていますので,注意が必要です。例えば,社内規定では正社員には転勤が課されているためその分非正規社員との間で差を設けていると説明されていても,実際に正社員が転勤したことはないという場合には,正社員と非正規社員との間に差異を設ける理由にはならないと判断されています。

 

3 各種手当等について

各種手当について,以下ガイドラインや裁判例に基づき,どのような手当てについて差異を設けていたことが不合理であったか,不合理でなかったか紹介していきます。

 

(1)まず,賞与につきましては,正社員に対して会社の業績等労働者の貢献度に応じて支給している場合,同一の貢献には同一の支給をしなければならないとされています。

 

(2)無事故手当について,優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給される手当であること,職務の内容は異ならず,安全運転及び事故防止の必要性は,職務の内容によって差異は生じないこと等から正規社員と非正規社員との間に差を設けることは不合理と裁判所では判断されました。

 

(3)作業手当について,特定の作業を行った対価として支給されるものであり,作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の手当であること,職務の内容は正規社員と非正規社員との間で異ならないことから,差を設けることは不合理であると判断されました。

 

(4)給食手当について,従業員の食事に係る補助として,勤務時間中に食事をとることを要する労働者に対して支給する手当であること,職務内容が異ならない上勤務形態にも違いがないこと等から,この手当についても差を設けることは不合であると判断されました。

 

(5)住宅手当については,従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給される手当であること,契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対して正社員については,転居を伴う配転が予定されているため契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得ることから,差異を設けることについて不合理ではないと判断されました。

 

(6)皆勤手当てについては,運送業務を円滑に進めるためには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから皆勤を奨励する趣旨で支給される手当ですが,正規社員と非正規社員との間で職務内容は異ならず,出勤する者を確保する必要性は職務の内容によって差異が生じないこと,出勤する者を確保する必要性は当該労働者が将来転勤や出向する可能性,就業規則上非正規社員について業績や成績を考慮して昇給することがあるとされているが,昇給しないことが原則である上,皆勤の事実を考慮しても昇給が行われた実情がないこと等から,不合理であると判断されました。

 

(7)通勤手当について,通勤に要する交通費を被転する趣旨で支給される手当であること,労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではないこと,職務の内容及び配置の変更が異なることは通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではないことから,差異を設けていることは不合理であると判断されました。

 

4 まとめ

以上,運送業に関する裁判例やガイドラインに基づき,同一労働同一賃金について簡単ではございますが説明させていただきました。ご覧いただきました通り,裁判例でもガイドラインでも正社員と非正規社員との間に賃金や手当の差異がある場合に,その差異の根拠を合理的に説明できることが求められています。非正規社員の方について,どのような職務をさせるのか,どのようなキャリアを期待しているのか,どのような待遇にするのか,長期的に働いてもらうことを予定しているのかといった点を明確にし,合理的に説明できるようにしておくことが必要になってきます。

 

弊所では,同一労働同一賃金に関するご相談も承っております。運送業に関わる人のみならず,同一労働同一賃金についてご質問や気になることがある方はお気軽にお問い合わせください。

 

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