飲食業に特有の労務問題
飲食業界の労務問題として,長時間労働の問題とそれと関連する残業代の問題,残業代の支給対象となるかという管理監督者の問題,ハラスメントや休職の問題などが多く見られます。
1 長時間労働について
従業員に時間外労働をしてもらうには,いわゆる36協定を締結しておかなければなりません。そのうえで,会社は,タイムカードなどで労働時間をきちんと管理しなければなりません。会社が労働時間を管理できていない場合,従業員の言うとおりの労働時間が認められる可能性が高くなります。
また,長時間労働により,従業員の健康状態が害された場合,労働災害の認定を受けたり,会社の安全配慮義務違反を問われたりする可能性がありますので,常日頃から,労働時間の管理には気を配っておく必要があります。
2 残業代について
時間外労働に対して残業代を支払うのは当然ですが,いわゆる固定残業代を支払うという制度を採用している会社があります。固定残業代とは,労働基準法所定の残業代に代えて一定額の手当を支払うという制度です。固定残業代が認められるためには,最低限,固定残業代に当たる部分が明確に区分されている必要があるため,独立の手当として支給するといった就業規則等の規定を設けることが必要です。
また,固定残業代を支払えばそれ以上残業代を支払わなくてよいということではありません。労働基準法所定の計算方法による残業代が固定残業代を上回る場合は,その差額を支払わなければいけません。結局のところ,固定残業代は,固定残業代が労働基準法所定の残業代を上回るときに,残業代を余分に払うだけの制度であり,従業員のメリットの方が多い制度といえます。
なお,仮に固定残業代が裁判で否定された場合,固定残業代分も残業代を計算するための基礎賃金とみなされ,想定をはるかに上回る残業代の支払いとなる可能性もあるため,その導入には慎重を期す必要があります。
3 管理監督者について
いわゆる店長は管理監督者であるとして,残業代を支払っていないことがあります。しかし,管理監督者と認められるための要件は厳しく,店長という呼称だけでは認められません。店長の権限,勤務時間の自由度,給料等の待遇面などから具体的に判断されることになります。
4 パワーハラスメントについて
職場におけるパワーハラスメントとは,優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,労働者の就業環境が害されるものをいいます。狭い店舗内での複雑な人間関係により,パワーハラスメントが発生しないように,従業員に対する日常的な研修や相談窓口の設置といった対応を取っておく必要があります。また,不幸にも実際にハラスメントが起きてしまった場合の手順などを策定しておいて,適切に対処する必要があります。
5 休職について
長時間労働やハラスメント等を原因として,従業員がうつ病などを発症し,休職せざるを得ない状況になることがあります。このような場合に備え,就業規則において,休職の規定や復職する場合の規定を設けておく必要があります。
従業員の私傷病による休職は,従業員の都合により労務を提供できなくなるわけですから,解雇となることが原則ですが,それを一定期間猶予するのが休職です。休職期間がすぎても従業員の体調が回復しなかった場合は,自然退職や解雇ということになります。
このため,解雇を嫌がる従業員が,休職期間の終了間際に復職できる状態ではないのに復職を求めることがあります。私傷病が治癒したかどうかは医師の判断であり,診断書が出されるのが通常ですが,診断書に疑義があっても安易にこれを否定せず,直接医師に確認する等する必要があります。このような手続をスムーズにとれるように就業規則を整備しておくべきでしょう。