テレワーク・時差出勤を導入するにあたっての法的な注意点

第1.テレワーク勤務について

1.テレワークとは

(1)テレワークとは,インターネットなどのICTを活用した場所にとらわれない柔軟な働き方で,勤務場所から離れて,自宅等で仕事をする働き方のこと。テレワークは働く場所によって,在宅勤務,モバイルワーク,サテライトオフィス勤務の3つに分けられます。

(2)テレワークについてはそもそも政府が推進する働き方改革の一つです。
2014年に内閣府により公表された「世界最先端IT国家創造宣言」では,

「若者や女性、高齢者、介護者、障がい者を始めとする個々人の事情や仕事の内容に応じて、クラウドなどのITサービスを活用し、外出先や自宅、さらには山間地域等を含む遠隔地など、場所にとらわれない就業を可能とし、多様で柔軟な働き方が選択できる社会を実現するとともに、テレワークを社会全体へと波及される取組を進め、労働者のワーク・ライフ・バランスを実現する。」(引用:『世界最先端IT国家創造宣言』、「雇用形態の多様化とワーク・ライフ・バランス(「仕事と生活の調和」)の実現」)という目標が掲げられています。

(3)テレワーク勤務は働き方改革の一つとして推進,導入されるようなり,昨今の新型コロナウイルスの流行に伴い,テレワークの需要及び重要性が認識されるようになり,テレワーク需要は急速に拡大しました。

しかし,テレワーク勤務の導入についてなかなか導入できない会社も多く,その原因が,そもそもテレワークに適した職種ではないことや,テレワークの導入にあたり手続面が煩雑そうであるというイメージや導入コストへの懸念から実施が遅れているという事情もあります。

 

2.テレワーク勤務のメリットとデメリット

(1)テレワーク勤務のメリットは従業員の業務効率化による生産性向上,遠隔地での業務を可能にする,通勤時間の短縮,ワークライフバランスの確保にあります。

(2)デメリットとしては,労働時間の管理が難しい点,従業員間のコミュニケーション不足,情報セキュリティへの不安や評価の対象の選定が困難であるという点が挙げられます。

 

3.テレワーク実施に際しての問題点

(1)まず,就業規則や労働条件通知書において,テレワークに関する規定が存在するか否か確認が必要となります。

 就業規則においてテレワークに関しての規定が存在する場合

この場合特段問題はなく,自宅等を就業場所とする指定を業務命令により行えばよいと解されております。ただし,「就業の場所」は,労働条件通知書の明示事項であるため,労働条件通知書の「就業の場所」に「事業場,自宅,その他会社が認めた場所」等の記載をしておく必要があります

 就業規則等においてテレワークに関する規定がない場合

この場合,テレワークの可否の問題とテレワークが可能であるとして就業規則の変更の要否の問題が存在します。

前者(テレワークの可否)については,労働条件通知書等において就業場所に関して自宅を含む記載となっていれば業務命令として各従業員の自宅を就業場所として指定し,テレワーク勤務をさせることが可能と解されております。

そのような規定がない場合でも,企業の業務全般について従業員に対する業務命令権の行使という形でテレワーク勤務を実施することが可能と解されています。

 就業規則の変更の要否につきましては,テレワークを単に「事業場外で仕事をすること」と解すると,「就業場所」の定めは就業規則の必要的記載事項ではないため,就業規則改定が法的に「必要」とまではいえないと考えられます。

もっとも,労働時間や休憩,費用負担等において通常勤務とは異なるルールを設定するときは就業規則の変更が必要なのではないかとも考えられます。この点,厚生労働省の手引きにおいては,「通常勤務とテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ)において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。しかし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合があり、その場合には、就業規則の変更が必要となります」と記載されている(厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」)と記載されています。

すなわち,会社において通常勤務する場合と在宅で勤務する場合とで労働条件が同じであるならば就業規則の変更まで必要ないと考えられます。ただし,従業員にテレワークに関する費用(通信費用等)を負担させたり,諸手当の支給について変更があるなど,従業員に不利益が生ずる場合には就業規則の変更が必要となってきます。

 テレワークであるからといって,会社の判断のみで諸手当を支給しなかったり,費用を負担させたりすることは違法になる可能性があります。また,従業員の就業場所を自宅とする場合,労働条件の変更にあたり,従業員に個別の合意を得ることが前提となり,それを書面で提示しなければなりません。テレワークに関して就業規則に定めがない場合,労働条件が変わらないような場合でも念のため就業規則に記載しておくのがよいと考えられます。その他にも,テレワーク命令,服務規律,セキュリティ等の観点から,就業規則やテレワーク規程にてルールを定めておくほうが後々のトラブルを避けるという点では得策であると考えます。

(2)では労働条件通知においてはどのような記載が必要なのかというと,労働条件通知書において,「就業の場所」は,明示事項(法的に必要な記載事項)であるため,労働条件通知書の「就業の場所」に「事業場,自宅,その他会社が認めた場所」等の記載をしておく必要があります。他方,すでに雇用していた従業員で,後からテレワーク勤務を行うことになった場合には,必ずしも労働条件通知書に明記をしておく必要はありません。しかし,そのような場合でも改めて就業場所に「自宅等」と記載された労働条件通知書を交付しておいたほうが安心です。

 

4.テレワーク中に生じた費用の清算

(1)ペンや付箋等の事務用品については,企業が仮払いをし,従業員が購入した後に領収の提出を求め清算する方法か従業員が立て替え払いし,領収書等の提出を求め費用を清算する方法があります。

(2)通信費や電気代についても,企業が仮払いをし,従業員が業務のために使用した部分を合理的に計算して清算する方法と従業員が家事部分を含めて負担した通信費等を,業務のために使用した部分を合理的に計算して清算する方法があります。具体的な計算式は以下のとおりとなります。

「インターネット料金」

1か月分の基本料金・通信費等×在宅勤務日数/該当月の日数×2分の1

「電気代」

1カ月分の基本料金等×使用した部屋の床面積/自宅の床面積×在宅勤務日数該当月の日数×2分の1

 

5.テレワーク勤務中の勤怠管理

(1)テレワーク勤務中の勤怠管理をどうするかという問題がございます。テレワークでも仕事中に待機時間や手を動かしていない時間があっても,労働から解放されておらず,指揮命令下にある場合には労働時間と認定され得る可能性があります。労働基準法の適用があり,使用者は労働時間を適正に把握し,管理しなければならない義務を負います。そのため,使用者はクラウドを用いるなどして従業員の労働時間を把握しておかなければなりません。また業務管理についても,成果物で評価したり管理するのかを検討する必要があります。成果物がないもしくは見えずらい業種もあるため,どのように評価するのか方針を定め,従業員に伝えておく必要があります。

(2)使用者は従業員の労働時間や状況について適正に把握しておかなければならない反面,従業員が仕事中であっても在宅である限り,従業員のプライバシーにも配慮しなければなりません。社会通念上相当な範囲で仕事中の監視は可能であると解されていますが,常にカメラを起動しておかなければならないのか等問題になります。この点,テレワーク中にパソコンに付随しているカメラを用いて業務を監視する場合,従業員の同意が必要となります。そのため,業務中はパソコンのカメラを起動しておくように就業規則やテレワーク規定に定めておくことをお勧めします。

 

6.テレワーク対象者について

(1)従業員について,全従業員をテレワークの対象にするのか一部の従業員に限るのかは会社側で決定する事項となります。テレワークを行う目的や,業種,仕事内容,仕事量によって判断されます。後々の紛争を避けるため,予め就業規則においてテレワークの対象者を記載しておいたほうが安心です。

(2)就業規則への記載例

 従業員に対して広くテレワークを認める場合

第●条

在宅勤務の対象者は,就業規則第●条に規定する従業員であり,次の各号のすべてを満たすものとする

①在宅勤務を希望する従業員

②自宅の執務環境,セキュリティ環境について会社が適正と認める従業員

 育児介護等で必要がある場合にテレワークを認める場合

第●条

在宅勤務の対象者は,就業規則第●条に規定する従業員であり,次の各号のすべてを満たすもの

①在宅勤務を希望する従業員

②自宅の執務環境,セキュリティ環境について会社が適正と認める従業員

③育児,介護,従業員自身の傷病により,出勤が困難であると認められる従業員

(3)上述のとおり,テレワーク対象者は会社が基本的には自由に設定,選定することができます。しかし,「正規雇用」か「非正規雇用」かという雇用形態のみでテレワーク対象者かそうでないかの相違をもうけることは,均等待遇の観点から問題になってしまいます。会社がテレワーク勤務の目的についてどのように設定するかにもよりますが,雇用形態ではなく,上記の通り,業種,仕事内容,身体的負担の有無等で判断すべきとなります。

 

7.テレワークに関するまとめ

以上の通り,テレワーク勤務を導入するに際しては検討しておくべき事項は多いです。特に就業規則変更の要否,必要とした場合の文言の検討,テレワーク費用の算定,テレワーク勤務の対象者の選定等法律の専門知識を必要とする点もあります。

もっともこのご時世テレワーク勤務に対する需要や関心が高まっているのも事実です。専門家の意見をききつつ,柔軟な働き方のため積極的に導入を検討していくことが会社や従業員のためになると考えられます。

 

 

第2.時差出勤について

1 時差出勤とは

(1)まず時差出勤とは,社員の始業時刻・終業時刻を前後にずらして出社させる制度のことです。始業時刻・終業時刻をずらしたパターンをいくつか作成し,そのパターンの中から任意に,もしくは会社の指示により,出勤時間を選択して出社してもらいます。時差出勤に似た制度として,勤務間インターバル制度,後に紹介するテレワーク,フレックスタイム制などがあるが,いずれも厳密にいうと意味合いが異なります。

(2)時差出勤に似た制度として以下の制度があげられます。

・勤務間インターバル制度

社員の睡眠時間や休息時間の確保のために,前日の終業から翌日の始業開始までに一定の時間を設けることを社員に義務付ける制度です

・テレワーク

既にご紹介したとおり,インターネットを活用した、時間・場所に拘束されない働き方です

・フレックスタイム制

会社の決めたコアタイムに出社すれば,定められた総労働時間内の範囲で,始業時刻・終業時刻を労働者が自由に決めることができる制度です

以上のとおり,時差出勤と似た制度が複数あります。いずれかの制度を導入するかによって,就業規則での記載方法が異なってくるため,まずはどういった制度を導入したいのかを確認することが大切です。

2.時差出勤導入にあたり整えておくべきこと

(1)始業時刻の決定

既に述べたとおり,時差出勤導入にあたっては始業時間・終業時間のパターンを決定しておく必要があります。何時間早く出勤させるかについてや何パターン準備しておくかについて法律上定めはないため,導入する会社が判断する必要があります。

例)午前9時が始業の会社である場合…

ⅰ)午前8時~

ⅱ)午前9時~

ⅲ)午前10時~

このように勤務開始時間の1~2時間の間で数パターン設定するケースが多いです。

(2)勤務パターンの決定方法

時差出勤の勤務パターンを決定する方法には会社側が決定する方法と社員側が決定する方法があります。業務への支障を最小限にするためには,部署ごとや業種ごと等に分け,会社が勤務パターンを決定する方法がお勧めです。ワークライフバランスの実現を主目的として,社員に自由に選択させる方法もありますが,業務への支障が生じないように,ある程度以会社が勤務パターンを決定する必要があると考えられます。時差出勤の勤務パターンを会社が決定するにしても,従業員が決定するにしても当該勤日の1週間~1カ月ほど前から周知しておく必要がありました。

当日に決定することができてしまうと,遅刻と時差出勤の区別がつかなくなり,制度の悪用がなされてしまう可能性があります。

(3)時差出勤導入時の勤怠管理について

時差出勤の場合,労働者ごとに始業時刻が異なるため,実労働時間の把握を労働者個人ごとに行う必要があります。実労働時間の把握,残業代計算を自動的に行ってくれるクラウドシステムの導入などを合わせて検討することが有益と考えられます。この他会社のサーバーへのログイン,ログアウト時間で管理する方法もあります。

(4)就業規則の整備

始業時刻・終業時刻は,就業規則の絶対的必要記載事項であり,必ず就業規則に記載しなければならなりません。時差出勤を導入し,始業時刻・終業時刻が勤務パターンによって複数存在する場合,そのすべてを就業規則に記載しておかなければなりません。

就業規則記載例①)

会社が始業時間等指定する場合

第○条

当社の始業時刻・終業時刻,次の2パターンから,当社が月の前月25日までにシフト表によって指定する。

Aパターン         Bパターン

・始業時刻午前7時00分 ・始業時刻午前8時00分

・終業時刻午後4時00分 ・終業時刻午後5時00分

就業規則記載例②)

従業員選択型のパターン

第○条

当社の始業時刻・終業時刻は,次の通りとする。

・始業時刻午前9時00分

・終業時刻午後6時00分

第○条

時差出勤制度の適用を希望する社員は,時差出勤の適用される月の前月25日までに,当社所定書面による届出を行うことにより,次の2パターンから始業時刻・終業時刻を選択することができる。

Aパターン        Bパターン

・始業時刻午前7時00分 ・始業時刻午前8時00分

・終業時刻午後4時00分 ・終業時刻午後5時00分

 

 

第3.まとめ

以上が時差出勤とテレワークに関しての注意点となります。テレワークに関しても時差出勤に関しても就業規則の見直し,変更,整備は必要となります。この辺りは専門的な知識が必要となってきますので,弁護士に相談することをお勧めします。

以上

 

 

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