中小企業は要確認!! 月60時間を超える時間外労働の割増賃金について

1 はじめに

会社は、月60時間以上の法定時間外労働を行った労働者に対して、割増率を50%以上とした割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項ただし書)。もっとも、これまで同規定が適用されていたのは大企業だけで、中小企業には同規定の適用が猶予されていました(旧労働基準法138条、現在は削除)。
しかし、今般、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)による改正を受けた改正労働基準法のもとで、長時間労働の抑制、労働者の健康確保等の観点から、大企業と中小企業で割増賃金の扱いを同様にすることが決まりました。そのため、2023年(令和5年)4月1日以降は、たとえ中小企業であったとしても、月60時間以上の法定時間外労働を行った労働者に対しては、割増率を50%以上として割増賃金の支払いを行わなければなりません。
そこで、本記事では中小企業に適用される割増賃金規制の概要について確認したいと思います。

 

2 中小企業とは

改正労働基準法で対象とされる中小企業(条文上は「中小事業主」)に該当するかどうかは、①資本金の額または出資の総額と②常時使用する労働者数の2つの視点から判断されます。両方の要件を満たす必要はなく、①または②どちらかの要件を満たせば中小企業に該当します。これらの基準は、会社の業種によって異なるため注意が必要です(参考:厚生労働省「中小企業の皆さまへ 2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。(https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf

業種 ①資本金の額または出資の総額 ②常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
上記以外のその他の業種 3億円以下 300人以下

 

3 割増賃金の計算について

(1)法定時間外労働とは

労働基準法上、使用者は、労働者に対して、休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えて労働させることはできません(労働基準法32条1項)。もっとも、業務の柔軟な運営の必要性などの観点から、一般に36協定と呼ばれる労使協定を締結することにより、法定時間外労働を労働者に課すことが可能となります。

(2)割増賃金

労働基準法上、法定労働時間を超えた労働については、25%の割増賃金を支払わなければなりません。そして、さらにそれが1か月で60時間を超えた場合には、その超えた部分につき50%の割増賃金を支払う必要があるということになります。この部分が、2023年(令和5年)4月1日から中小企業にも適用されることになったという訳です。
なお、割増賃金として会社が支払うべき金員は他にも存在し、法定休日の労働に対しては35%の割増賃金を、深夜労働(原則、午後10時から午前5時までの間)の労働に対しては25%の割増賃金を支払う必要があります。

労働時間 月60時間以内 月60時間以上 法定休日
午前5時から午後10時まで 25% 50%
※改正により大企業・中小企業問わず
35%
午後10時から午前5時まで 25%+25%(深夜労働)=50% 50%+25%(深夜労働)=75% 35%+25%(深夜労働)=60%

 

4 会社としての対応

(1)代替休暇制度

ここまで述べてきたように、法定労働時間から月60時間を超えた部分については50%以上の割増賃金を支払う必要がありますが、割増賃金を支払う代わりに、労働者に代替休暇を付与することも可能です(労働基準法37条3項)。この制度を会社に導入する場合、あらかじめ労使協定を締結しておく必要があります。
なお、同制度はあくまで「法定労働時間から月60時間を超えた部分」につき適用される制度ですので、通常の時間外労働部分につき代替休暇制度を適用する余地はありません。また、同制度の趣旨は、労働者の健康への配慮ですので、代替休暇は、1日又は半日単位で労働者に取得させる必要があります(労働基準法施行規則19条の2)

(2)就業規則の変更

割増賃金に関する法律の適用が中小企業に拡大される以上、従来の法律に即して割増率を定めていた就業規則については、速やかに改定作業を進める必要があります。

 

5 まとめ

近年、労働環境の改善に対する世間の関心は高まってきており、中小企業においても否応なく対応が迫られるところかと思います。労働基準法等の法律が深く関係する分野であり、なおかつ、最新の改正分野にもなりますので、一度こうした内容を取り扱う使用者側の労働問題に強い弁護士にご相談することをお勧めします。

 

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