退職勧奨でトラブルを避けるための7つのポイント
目次
1 退職勧奨とは?
退職勧奨とは,労働契約を任意で解消することのお誘いです。退職勧奨によって退職の合意が成立した場合,解雇ではありませんから,解雇権濫用法理等が適用されません。つまり,解雇の有効性をめぐってトラブルになることを回避することができます。
以下では,退職勧奨のポイントをお伝えします。
2 退職勧奨のポイント①:退職の意思表示を書面化しておく!
退職勧奨のポイント1つ目は,退職の意思表示を書面化しておくことです。退職の合意をしたはずなのに,労働者が後になって「退職の合意なんてしていない。私は解雇されたのだ。」と主張してくる場合があります。
裁判では証拠がないと不利になります。もし退職の意思表示を書面化していなかった場合,裁判官は「退職の合意という重要事項を,企業が書面化しないわけはない。書面がないということは,退職合意はなかったのだろう。」と考えます。これを避けるために,必ず書面を作成してください。
具体的には,「退職合意書」又は「退職届と退職届受理承認書」です。いずれの書面にも,必ず「退職日」を記載してください。いつ退職するかが確定していないと,退職の合意が確定していないと判断される可能性があるからです。
また,退職届は,使用者が受理するまでは撤回することができます。退職届の撤回を避けるために,退職届受理承認書も作成するようにしてください。
3 退職勧奨のポイント②:丁寧な事実確認(5W1Hのヒアリング)
退職勧奨のポイント2つ目は,丁寧な事実確認(5W1Hのヒアリング)です。これは,労働者の問題行動を理由に退職勧奨する場合に重要です。どのような問題行動があったのか,丁寧に事実確認をしたうえで退職勧奨してください。
事実確認を怠ったまま退職勧奨をしても,労働者の納得を得られません。「会社は適当な調査で俺を悪者扱いしやがって。絶対辞めてやらないからな。」と退職勧奨を拒否されたうえに,信頼関係にひびが入って状況が悪化する可能性もあります。
また,丁寧な事実確認をすることで,後述する懲戒処分の見込みも明らかになります。
4 退職勧奨のポイント③:懲戒処分の活用
退職勧奨のポイント3つ目は,懲戒処分の活用です。「このままでは懲戒処分を出すことになってしまう。」と伝えることで,懲戒処分歴が転職に響くことを嫌がる労働者の場合は,退職に応じてくれる可能性があります。
ただ,注意していただきたいのは,懲戒解雇までは予告しないということです。懲戒解雇まで予告してしまうと,退職ではなく解雇だと判断されてしまう可能性があるからです。
また,重すぎる懲戒処分は無効ですので,この点も注意してください。適切な重さの懲戒処分を下すためにも,前述した丁寧な事実確認が重要になってきます。
5 退職勧奨のポイント④:配転命令の活用
退職勧奨のポイント4つ目は,配転命令の活用です。「ここままでは配転命令を出すことになってしまう。」と伝えることで,今の部署・仕事にこだわりのある労働者は,退職に応じてくれる場合があります。
この場合に注意していただきたいのは,嫌がらせ目的や辞めさせる目的での配転命令は無効になってしまうということです。合理的な理由のある配転命令を予告するようにしてください。たとえば,取引先とのトラブルが頻発している労働者を,営業職から事務職に配転させるのは,合理的な理由があるといえます。
6 退職勧奨のポイント⑤:退職条件の柔軟な調整
退職勧奨のポイント5つ目は,労働者の希望に応じて,退職条件を柔軟に調整することです。たとえば,転職活動を重視する労働者に対しては,退職日を数カ月先に設定して,その間の労務を免除して転職活動をサポートすることが考えられます。また,退職後の生活不安が大きい労働者に対しては,解決金を上乗せすることが考えられます。
解決金を支払う場合に注意していただきたいのは,解決金の源泉徴収です。解決金の金額が決まり,いざ支給する段階になって源泉徴収を行うと,労働者から,「満額支払われていない」と主張されトラブルになる場合があります。源泉徴収する場合は,退職合意書等にあらかじめ明記しておくとよいでしょう。
なお,退職勧奨による退職の場合,退職理由は「会社都合退職」になります。雇用関係の助成金を受給している場合,これを打ち切られる可能性がありますので,事前に弁護士等に相談してください。
7 退職勧奨のポイント⑥:引き際を見極める
退職勧奨のポイント6つ目は,引き際を見極めることです。退職勧奨はあくまで任意に退職してもらうものですから,無理強いしてはいけません。無理に合意させても,合意が無効になるおそれがあります。明確に拒否された場合はすぐに勧奨をストップしてください。無理強いしたといわれないために,一度の退職勧奨は30分程度にしてください。退職を一度拒否されても,退職条件を変更して再勧奨することはできますので,その場で粘らずいったん持ち帰ってください。
執拗な退職勧奨は,使用者や上司の不法行為に該当するとして,損害賠償請求される可能性もありますので,ご注意ください。
8 まとめ
いかがでしたでしょうか。退職勧奨は,解雇のような高いハードルこそありませんが,任意に応じてもらわなければなりませんので,コツが必要です。弁護士は,法律のプロであるとともに交渉のプロでもあります。退職勧奨をお考えの方は,ぜひ事前にこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。