職場におけるパワーハラスメント(インシビリティを含む)に対する法的注意点と実践的対応

昨今、労働環境の適正化が叫ばれる中、企業にとって「パワーハラスメント(パワハラ)」への対応は、法的リスク管理と組織力維持の両面において最優先課題の一つとなっています。2019年のパワハラ防止法改正により定義が明確化されましたが、依然として現場では「指導」と「パワハラ」の境界線に悩む声が絶えません 。

本記事では、パワハラの法的定義から具体的な6類型、さらに近年注目されている「インシビリティ(礼節の欠如)」が組織に与える影響と対策について、実践的な視点で解説します。

1. パワーハラスメントの法的定義:3つの要素

法的にパワハラと認定されるためには、以下の3つの要素すべてを満たす必要があります 。
1. 優越的な関係を背景とした言動 職場での立場(役職)だけでなく、専門知識、人間関係など、抵抗や拒絶が困難な背景がある場合を含みます 。そのため、部下から上司への言動であっても、知識の差などを背景に業務遂行を阻害する場合はパワハラに該当し得ます 。

2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの 業務上の必要性がない、あるいは指導の態様(やり方)が社会通念上不適切であるものを指します 。

3. 労働者の就業環境が害されるもの 身体的・精神的苦痛を与え、労働者が業務に支障をきたす状況を指します 。判断にあたっては「平均的な労働者の感じ方」が基準となります 。

重要: パワハラは、受け手が「パワハラだ」と思えば成立するわけではありません。あくまで「社会一般の労働者の視点」から客観的に判断されます 。

2. パワハラの6類型と具体的な境界線

厚生労働省の指針では、パワハラを以下の6つの類型に分類しています 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. 「指導」と「パワハラ」を分けるマネジメントの核心

管理職にとって最大の懸念は、必要な指導が「パワハラ」と言われることを恐れて萎縮してしまう「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」ことです 。正当な指導をパワハラ化させないためには、以下の基準を意識する必要があります。
「点」ではなく「線」で見る
パワハラの該当性は、その時の事実単体(点)ではなく、日頃からの信頼関係や接する態度の積み重ね(線)で判断されます 。
正当な指導の条件
能力不足を理由に指導・解雇を検討する場合でも、以下のプロセスが不可欠です 。
具体的説明: 会社が求める能力と現状の差異を説明する。
改善の指摘: 具体的にどこをどう改善すべきか指導する。
猶予期間: 改善のための一定期間を与える。
目的と態様のセルフチェック
目的の正当性: 相手の成長や組織の規律維持が目的か?個人的な感情の発散になっていないか?

方法の相当性: 具体的な問題点を指摘しているか?抽象的な批判や嫌がらせになっていないか?

4. 組織を蝕む「インシビリティ(礼節の欠如)」の危険性

近年、明らかなパワハラ以前の「インシビリティ(無礼な振る舞い)」が、組織崩壊の引き金になることが指摘されています 。

インシビリティとは
挨拶を無視する、話している最中にスマホをいじる、皮肉を言うといった、「ちょっとした無礼な振る舞い」のことです 。

組織に与えるダメージ
1. ハラスメントへのエスカレート: 「割れ窓理論」のように、小さな無礼を放置すると言動が過激化し、やがて深刻なハラスメントに繋がります 。

2. 創造性の阻害: 心理的安全性が低下し、新しいアイデアが生まれなくなります 。
3. 負の連鎖(汚染): 無礼は感染し、組織全体がギスギスした空気に包まれます 。

5. 実践的対応:今日からできるアクション

パワハラのない、心理的安全性の高い職場づくりは、全員の当事者意識によってつくられます 。
企業がとるべき対策
定義の明確化: 就業規則に「部下から上司」へのハラスメントも対象であることを明記する 。
相談窓口の整備: 上司も安心して相談できる体制を整え、外部の専門家(弁護士・社労士等)を活用する 。
全社員研修: 意識改革のため、管理職だけでなく一般社員も含めた全員対象の研修を実施する 。
個人ができる具体的アクション
• 忙しい時こそ、相手の目を見て挨拶する。
• 会話において「否定(でも、だって)」から入るのを避ける。
• 不機嫌を態度に出して周囲を萎縮させない。
• 「自分の両親の前でも同じ言動ができるか?」と自問自答する。

まとめ

パワーハラスメントは、時に労働者の命に関わる重大な侵害となり、企業に対しても数千万円単位の巨額な賠償命令が下される法的リスクを孕んでいます 。
+2
しかし、礼節(シビリティ)を保つことは、単なるマナーではありません。それは「組織の生産性を高めるための最高の戦略」です 。互いへの敬意をベースとした信頼関係を構築し、心理的安全性の高い職場を共に創り上げていくことが、持続可能な企業成長への確かな道と言えるでしょう。

ハラスメント対策や社内規程の整備に関するご相談は、専門の法律事務所へ。 法律事務所瀬合パートナーズでは、企業の健やかな組織運営を法的な側面からサポートしています。本内容に関する法的な詳細、個別事案のご相談は当事務所までお気軽にお問い合わせください。

 

労働問題に関するご相談メニュー

団体交渉(社外) 団体交渉(社内) 労働審判
解雇 残業代請求・労基署対応 問題社員対策
ハラスメント 就業規則 安全配慮義務
使用者側のご相談は初回無料でお受けしております。お気軽にご相談ください。 神戸事務所 TEL:078-382-3531 姫路事務所 TEL:079-226-8515 受付 平日9:00~21:00 メール受付はこちら