【詳細解説】請負と派遣の区別基準と実務対応
~偽装請負のリスクを回避し、適正な外部活用を実現するために~
目次
はじめに
労働力不足が深刻化する現代、外部リソースの活用には、「自社にない専門スキルの即時導入」や「コスト構造の柔軟化(労務費の変動費化)」といった大きなメリットがあります。 しかし、ここで最も注意すべきは「実態判断の原則」です。形式上の契約が「請負契約」や「業務委託契約」であっても、現場で発注者が直接、受注側の労働者に指示を出している場合、法的には「派遣」とみなされます。偽装請負は、労働基準法、労働者派遣法、職業安定法といった複数の法律に抵触する恐れがあり、ひとたび発覚すれば企業経営に甚大なダメージを与えます。本稿では、実務担当者が迷いやすいポイントを中心に、徹底的に解説します。
1. 外部活用の基本構造と「偽装請負」の定義
1-1. 3つの契約形態の法的性質
外部の労働力を活用する場合、主に以下の3つの形態があります。
適切な運用のためには、まず各契約の性質を正しく理解する必要があります。
請負契約において、発注者が手に入れたいのは「労働」ではなく「成果物」です。そのため、その過程における受注側の労働者に対する指揮命令は、受注者が自ら行う必要があります。
1. 雇用契約: 自社が直接雇用し、指揮命令を行う。
2. 労働者派遣契約: 派遣元と雇用関係にある労働者が、派遣先の指揮命令を受けて働く。
3. 請負(業務委託)契約: 受注者が自らの責任と指揮命令下で仕事を完成させ、発注者はその成果物に対して対価を支払う。
1-2. 偽装請負とは何か
偽装請負とは、契約の名称が「請負」や「委任」であっても、その実態において**「発注者が受注側の労働者に対して直接指揮命令を行っている」**状態を指します。 これは、本来なら「派遣契約」として締結し、派遣法上の責任(マージン率の公開、派遣先責任者の選任、期間制限の遵守など)を負うべきところを、請負を装うことで免れようとする行為(脱法行為)とみなされます。
2. 適正な請負と判断されるための「4つの判断基準」
厚生労働省の告示(昭和61年37号)に基づき、以下の基準をすべて満たす必要があります。
① 労働力を自ら直接管理していること(指揮命令の独立性)
• 業務の遂行に関する指示(順序、方法、配置など)を自ら行っている。
• 労働時間(始業、終業、休憩、休日、残業など)の管理を自ら行っている。
• 服務規律の維持や、配置の決定を自ら行っている。
② 資金調達および支払を自ら行っていること(財務の独立性)
• 労働者への賃金支払を自律的に行っている。
• 契約の履行に必要な資金を自ら調達している。
③ 法律に規定された事業主としての責任を負っていること
• 労働保険・社会保険の加入、納税など、事業主としての義務をすべて果たしている。
④ 単なる労働力の提供ではなく、自らの責任と負担で業務を完了していること
• 業務に必要な設備、機材、材料を自ら準備している(または発注者から有償で借りている)。
• 専門的な技術や経験を用いて、自らの企画・責任で仕事を進めている。
3. 偽装請負が招く経営リスク
偽装請負は「知らなかった」では済まされない重大な罰則が設定されています。
3-1. 行政処分と社名公表
労働局の定期的な調査や労働者からの申告により発覚した場合、まず是正指導が行われます。これに従わない場合、改善命令が出され、最終的には**「企業名の公表」**に至ります。これは採用活動やブランドイメージに致命的な影響を与えます。
3-2. 労働契約申込みみなし制度
平成27年施行の改正派遣法により、違法派遣(偽装請負を含む)を受け入れている場合、その時点の労働条件と同一の条件で、発注者がその労働者に対して**「直接雇用の申し込みをした」**とみなされます。労働者が承諾すれば、発注者はその労働者を直接雇用する義務が生じます。
3-3. 刑事罰
職業安定法(労働者供給事業の禁止)違反や、派遣法違反として、**「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」**などの刑罰が科される可能性があります。
4. 【徹底詳説】実務におけるQ&A:現場のグレーゾーンを解消する
実務担当者が現場で直面する「判断が難しいケース」をQ&A形式で深掘りします。
Q1:成果物の質が低いため、個々のスタッフに直接「ここを直して」と指示していいですか?
A:原則としてNGです。 個々のスタッフへの直接指示は、たとえ「修正」であっても指揮命令とみなされます。
• 正しい対応: 受注側の管理責任者を呼び、発注者としての「検収結果」として、「この部分が仕様を満たしていないため、受注側の責任で修正してほしい」と伝えます。誰が、いつ、どのように修正するかを決定するのは、あくまで受注側の責任者です。
Q2:急なトラブルが発生しました。受注側の責任者が不在なので、目の前のスタッフに指示を出してもいいですか?
A:緊急時を除き、NGです。 日常的な業務上のトラブル対応は指揮命令の一部です。
• 正しい対応: 受注側の責任者に連絡がつく体制を常時整えておく必要があります。緊急の生命・安全に関わる事態(火災や地震など)を除き、業務の進め方に関する指示は責任者経由で行わなければなりません。
Q3:当社の社内ルールやセキュリティ規程を守らせるために、直接指導を行うことは可能ですか?
A:ルールの「提示」はOKですが、個別の「指導」は受注側が行うべきです。
• 正しい対応: 契約締結時や入場時に、「当社のセキュリティポリシー」や「施設利用ルール」を書面で受注側に提示します。そのルールをスタッフに徹底させるための教育や、違反したスタッフへの注意・指導は、受注側の責任者が行わなければなりません。
Q4:請負スタッフの出勤状況が悪いので、当社が直接注意してもいいですか?
A:NGです。 勤怠管理は受注側の専権事項です。
• 正しい対応: 「納期が遅延する恐れがある」「契約上の履行が滞っている」という事実を、受注側企業(またはその責任者)に伝え、改善を求めます。
Q5:発注側のオフィスに常駐してもらう場合、デスクやPCを貸与しても問題ありませんか?
A:無償での貸与は「労働者性の判断」において不利に働く場合があります。 請負は「自らの機材で仕事を完結させる」のが原則です。
• 正しい対応: セキュリティ上の理由で自社のPCを使わせる場合は、契約書においてPCの利用料を明確にするか、「セキュリティ管理上、発注者の指定機材を使用する」旨を明記し、かつその機材の運用管理自体も受注側の責任者が行うようにします。
Q6:受注側のリーダーと毎日ミーティングを行っていますが、これは指揮命令になりませんか?
A:ミーティングの目的が「進捗の確認」や「成果物の仕様の伝達(注文)」であれば問題ありません。
• ポイント: ミーティングの目的が「進捗の確認」や「成果物の仕様の伝達(注文)」であればOKです。しかし、そのミーティングで「明日のスタッフAさんの配置をこうしてほしい」といった、スタッフの管理に関する決定を共有・指示し始めると、指揮命令とみなされます。
Q7:安衛法に基づく「安全指導」はどこまで許されますか?(令和7年通達)
A:災害防止に直結する内容であれば、直接指示が認められます。 最新の通達により、以下のケースは偽装請負には当たらないと明確化されました。
• 「足場から転落する恐れがあるから、命綱をつけてください」
• 「ここで火気を使うのは危険なので、すぐにやめてください」 など、生命・身体の安全を確保するための「その場での注意」は許容されます。ただし、これを口実にした作業手順の変更指示などは認められません。
Q8:同じ作業スペースで自社社員と請負スタッフが一緒に働く「混在作業」は認められますか?
A:物理的な「混在」自体は禁止されていませんが、偽装請負の温床になりやすいため極めて厳格な管理が必要です。
• リスク: 同じ場所で似たような作業をしていると、つい発注側の社員が請負スタッフに「ちょっと手伝って」「次これやって」と声をかけてしまいがちです。これが指揮命令とみなされます。
• 正しい運用のために:
1. 指揮命令系統の完全な分離: 発注者と受注者の間に明確な境界(パーティションや座席区画)を設けることが望ましいです。
2. 責任者の常駐: 受注側の責任者が同じスペース、あるいはすぐ連絡がつく場所に常駐し、受注側スタッフへの指示は必ずその人から行うこと。
3. 外見上の区別: 胸章や腕章、制服、またはデスク上のネームプレートの色を変えるなど、一目で「誰が自社社員で、誰が請負スタッフか」が分かるようにします。
• 要注意点: 欠員が出た際に「発注側の社員が請負スタッフのラインをフォローする」あるいはその逆を行うと、偽装請負と判定されるリスクがあります。混在作業下では「助け合い」が法的な命取りになるおそれがあることを現場に徹底してください。
5. 偽装請負を防ぐための「現場運用チェックリスト」
現場で以下の事態が常態化していないか、定期的に監査(セルフチェック)を行ってください。
指揮命令系統の確認
• [ ] 受注側の現場責任者が明確になっており、スタッフはその人の指示で動いているか。
• [ ] 発注者が、受注側スタッフの個別の作業手順について口出しをしていないか。
• [ ] 共有チャットツール等で、発注者が直接スタッフにタスクを割り振っていないか。
勤怠・服務管理の確認
• [ ] 請負スタッフの出勤・退勤時間を発注者が管理(打刻等)していないか。
• [ ] 残業の要否を、発注者が個々のスタッフに直接打診していないか。
• [ ] 欠勤や遅刻の連絡先が、発注側の担当者になっていないか。
資産・実態の確認
• [ ] 業務に必要な消耗品や専門ツールを、受注者が自らの負担で準備しているか。
• [ ] 事務所の入り口等に、受注者の看板や標識があるか(事業の独立性の誇示)。
• [ ] 発注側の社員と請負スタッフが、外見上(名札、制服等)で区別できるようになっているか。
6. 適正な運用のための実務上の3ステップ
ステップ1:契約書の整備
単なる「業務委託契約書」で済ませるのではなく、以下の条項を盛り込みます。
• 指揮命令は受注者が行うことの明記。
• 機材・設備の負担区分の明記。
• 再委託の可否および条件。
ステップ2:現場責任者の教育
最も偽装請負が起きやすいのは、法務部門ではなく「現場」です。現場のマネージャーや担当者に対し、本稿のような内容を用いて定期的なコンプライアンス研修を実施してください。
ステップ3:定期的な実態監査
契約書と実態が乖離していないか、年に一度は現場へのヒアリングやチャット履歴の確認を行い、是正する仕組み(PDCA)を回します。
結びに:真のパートナーシップに向けて
偽装請負を回避することは、単なるリスクヘッジではありません。受注側企業が自らの裁量と専門性を発揮できる環境を整えることは、結果として高品質な成果物の納品につながります。 「自分たちの思い通りに人を動かしたい」という誘惑を断ち切り、成果物に対して責任を持つプロフェッショナルな組織として受注側を尊重すること。それこそが、コンプライアンスを遵守しつつ、最大の事業成果を得るための唯一の王道です。請負と派遣の区別基準についてお悩みの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。




















