労働基準監督署の対応・是正勧告の対応方法
1.横断的対応の必要性
労働基準監督署(対行政)、裁判所(対司法)のいずれも同じ労働法が適用されますが、実際に求められる対応は大きく異なります。
現在、労働基準監督署は社会保険労務士、裁判所は弁護士と役割分担が分かれていることが多いです
しかし、背景にあるのは同じ労働紛争であるため、労働基準監督署、裁判所ともに横断的な対応が望ましいでしょう。特に、合同労組、労働者側代理人弁護士は、裁判所に提訴する前に、労働基準監督署に申告しつつ、同時並行的に交渉をもちかけてくることがあります。会社にとっても、いずれも対応してくれる方が便宜なのではないでしょうか。
2.労働基準監督官の限界
(1)行政としての側面
労働基準法は行政取締法規ですが、個別労使紛争は、実際には、労働基準法だけでなく、労働契約法や民法、判例法理などがかかわる場合も多く、労働基準法のみが問題となることは少ないのが現実です。
実は、解雇の有効性(予告手当、解雇禁止規制等以外)、配転、採用、雇い止め、懲戒(減給の制限など除く)は労働基準法の適用外であり、労基署の所掌外なのです。
労基署は裁判所ではないので、当事者で争いがある争点については最終的な結論を出せません。労使双方に代理人弁護士がついて、裁判になることが想定される場合は、事実上、裁判の結果を待たざるを得ないのです。
(2)司法警察官としての側面
労働基準法違反がある場合、労基署から是正勧告が出されることがあります。是正勧告自体は行政指導にすぎず、強制力はありません。しかし、是正勧告を放置した場合、送検され刑罰を受ける可能性がありますので、実際には会社は、任意に是正勧告に応じていることが多いのが現状です。
なお、告訴、告発事案については、刑事訴訟法上の義務がありますので、すべて送検しています(刑事訴訟法第242条)。
3.労働基準監督署対応のポイント
では、労基署への対応は具体的にどのようにすればよいのでしょうか。
まず、労基署から求められた資料は提出し、質問には正確に答えましょう。当然ですが、絶対に嘘はいけません。
労基署は債権回収機関ではありません。過去よりも将来の是正に重きを置く傾向にあります。使用者側として主張したいことがあれば書面を作成して提出しましょう。
是正すると約束したものは必ず守りましょう。再度、労基署から調査が入ることが多いです。すでに訴訟になりつつある案件については、訴訟の経過を報告するなどして、待ってもらいましょう。
労基署が送検を視野に入れている場合は、明らかに労基署の対応が違います。
また、送検だけでなく、是正勧告が出るだけで、公共事業の指名停止処分を受けることがありますので、調査の対象とされる業種によってはご注意ください。
なお、あまりにも労働基準監督署の対応が常軌を逸している場合や法に違反している場合は、「厚生労働省労働基準局 監督課労働基準監督監察官」へ連絡することも検討してよいでしょう。
労働基準監督署の対応についてお困りの方は、ぜひ一度労務問題に詳しい弁護士にご相談ください。