採用における経歴詐称と会社の対応方法

はじめに

労働力不足の時代において、採用は重要な経営課題の一つです。

もっとも労働力を無理に確保しようとして、問題のある社員を採用してしまってはかえって経営に悪影響を及ぼしかねません。

また、採用を希望する社員のなかには、経歴を詐称する者もいます。

このような経歴詐称問題に対して、会社はどのように対応していけばよいのでしょうか。

主に問題となる経歴詐称の類型と会社の対応方法

労働者は、雇用契約の締結にあたり、信義則上、労働力評価に関する事項および企業秩序の維持に関係する事項について、必要かつ合理的な範囲で使用者に対して真実を告知すべき義務を負っています(炭研精工事件、東京高判 平成3.2.20)。

もっとも、経歴詐称があれば直ちに懲戒処分が有効となるものではなく、詐称された経歴の内容や当該労働者の職種などに即し、当該懲戒処分を行うことが合理的かつ相当といえるかについて、具体的に判断されます。

主に問題となる経歴詐称の類型としては、下記の3つがあげられます。

①犯罪歴、②職歴、③学歴、④病歴

 

① 犯罪歴

犯罪歴は知られたくない事由の1つなので、開示義務は限定される傾向にあります。

なお、履歴書の賞罰欄の「罰」とは、一般に確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味します。

ですので、起訴猶予事案の前歴、少年時代の非行歴、公判継続中の事件、消滅した前科(執行を終えて10年を経過した懲役刑や禁錮刑、罰金刑は5年)、懲戒解雇処分は含まれません。

したがって、採用を希望する者がこれらの犯罪歴を自ら告知する義務は原則としてありません。

もっとも、使用者が面接にあたり、特に質問したり、告知するよう指示した場合、告知すべき義務が生じる可能性があります。

 

② 職歴

使用者が期待していた能力を欠いている場合、解雇は通常の場合よりも比較的認められやすい傾向にあります。

この点、「中途採用は長期雇用を前提とし新卒採用する場合と異なり、会社が最初から教育を施して必要な能力を身に付けさせるとか、適正がない場合に全く異なる部署への配転を検討すべき場合ではなく、①社員が雇用時に予定された能力を全く有さず、②これを改善しようともしないような場合は解雇せざるを得ない」といわれています(ヒロセ電機事件、東京地判平成14年10月22日)。

このように、能力不足の中途採用社員を解雇するには、①社員が雇用時に予定された能力を全く有しないこと

②改善しようともしないことが必要となりますが、実際には、上記①②の立証が非常に難しいです。

したがって、会社としては、採用するにあたり、人事部等の面接だけでなく、担当部の面接やテストを行い、会社の要求している知識等を有しているかについて、十分に検証するべきです。

 

③ 学歴

学歴に関しては、最終学歴が特に重要となります。

最終学歴は、社員の労働力評価に関わるだけでなく、会社の企業秩序維持にも関係するからです。

学歴よりも高い学歴を詐称するケースが多く、業務に与える影響も大きいといえます。

逆に、学歴別の採用枠を狙って、実際の学歴よりも低い学歴を詐称するケースもあります。いずれも懲戒解雇事由に該当する可能性があります。

 

④ 病歴

裁判所は慎重な態度をとっています。参考判例として、視力障害を秘匿したことを理由とする普通解雇が無効とされた事例(サン石油事件、札幌高判平成18年5月11日)があります。

この点、厚労省の通達でも、採用前の健康調査は原則として行われるべきではないとしています(平成5年5月10日付事務連絡「採用選考時の健康診断について」等)。

また、改正障害者雇用促進法(平成28年4月施行)が定める障害者の不利益取扱の禁止は、募集や採用にも適用されるものと解されています.

 

【改正障害者雇用促進法の概要】

「事業主に対し、募集、採用段階での不当な差別的取扱いを禁止するとともに、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保等を図るための措置を講ずることを、「過度の負担」がない限り義務付けることとし、『合理的配慮措置』の提供を義務付けた」

 

もっとも、労働能力・適正に関する調査は当然に可能です。

そこで、会社としては、入社後に予想される業務の一部を行わせることで、精神障害等の有無を間接的に確認することが可能でしょう。

 

経歴詐称の問題についてお困りの経営者の方は、ぜひ一度労務問題に詳しい弁護士にご相談ください。

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