従業員の業務上横領での懲戒解雇に関する注意点!
目次
1 従業員による業務上横領が発覚!
まずは,その本人に話を聞くべき,と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。たしかに,信頼しお金の管理を任せていた従業員が横領したとなれば,ショックを受けずにはいられませんし,まずはその従業員に話を聞こうとされると思います。
しかし,これはNGです。その従業員に直接話を聞くよりも前に,言い逃れができないよう,業務上横領の証拠を獲得しておく必要があります。
2 業務上横領の証拠集め
まずは,その従業員が横領したとされる日時及び金額を特定しましょう。横領に使用されたと思われる領収書や請求書,送金伝票(の原本)を確認し,筆跡や捺印が本人のものかもチェックが必要です。資料に本人以外の印鑑が押されている場合には,印影や印鑑の持ち出し記録も確認し,一度,本当に本人が行うことができたのか,他の人が行った可能性がないかについて検討しておくとよいでしょう。
3 本人への聴き取り
ここまでの調査である程度客観的な証拠が集まってきたようであれば,従業員本人への聴き取りを行いましょう。ここで重要となるのは,本人がどのような話をするのかを正確に聞き,記録をとることです。聴き取りは2名以上で行い,質問係と記録係とで分かれると良いと思います。また,最初から犯人であると決めつけて話をすると,警戒し,必要なことも聞き取りにくくなりますので,あくまで本人の言い分を確認するというスタンスで臨みましょう。
本人が横領を認めた場合には,日時,金額,手口を確認し,詳細に記録しておきましょう。また,会社が把握している以外の横領がないかも確認が必要です。
4 本人が横領を認めた!
本人が横領を認めたときには,横領した金額について「支払誓約書」を提出させましょう。支払誓約書には,横領の日時,金額,手段を記載し,返済してもらう金額,横領に関して生じたトラブルがあればその解決に協力することなどを記載させておくと安心です。これは,被害金額を返済させるためのものではなく,横領したことの証拠として,重要なものとなりますので,必ず提出させるようにしてください。
5 就業規則をチェック!
従業員の横領があったという場合には,その本人に対してどのような処分ができるのかを確認する必要があります。犯罪をしたのだから懲戒解雇できて当然と考えてはいけません。就業規則に定めがない場合や,就業規則に定めがある場合であってもその規定に従った方式に則っていない場合には,懲戒解雇が無効になる可能性もありますので,入念に確認しておきましょう。
また,本人からの聴き取りは,就業規則の定めを確認した後の方がおすすめです。なぜなら,先に確認しておけば,就業規則の方式に則った聴き取りの機会を与えることも可能になるためです。
6 懲戒解雇通知書を作成し,本人に交付しましょう
懲戒解雇通知書を作成し,本人に交付することは,雇用関係の終了の事実やその日付を明確にするために重要な手続です。懲戒解雇通知書を作成する際には,懲戒解雇の理由を記載する必要があります。その際には,横領の事実をできる限り詳細に記載しましょう(いつ,いくらを,どのような方法で横領したか等)。また,懲戒解雇通知時点で,会社が把握している横領の事実を全て記載する必要があります。あとから理由を追加することはできません。
懲戒解雇通知書は,本人に交付しなければなりません。方法としては,本人に手渡すことや郵便で送ることが考えられますが(どちらもできないときには裁判所で公示送達の手続きをとることもあります。),どちらも本人が受け取ったことを証明できるようにしておきたいので,受領書をもらう,特定記録郵便にする等の工夫も必要です。
7 弁護士にご相談を!
従業員が横領しているかもしれない,信頼していた従業員が横領していたので懲戒解雇したいなど,さまざまな段階で対応に頭を抱えておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。弁護士であれば,その会社の問題の段階に応じて的確なアドバイスをすることが可能です。
証拠集めや従業員への聴き取り,懲戒解雇通知書の送付などで動かれる前に,まずは一度弁護士へのご相談をおすすめします。