退職者からパワハラ・セクハラなどのハラスメントで訴えられた場合の企業の対応方法
目次
1 はじめに
「この前退職した従業員からパワハラやセクハラを理由に訴えられた!」
ある日突然、こんなことが起こるかもしれません。企業のハラスメント窓口への申告ではなく、退職後にいきなり在職中のパワハラ・セクハラなどのハラスメントについて裁判を起こされるということもあります。
では、このような場合、企業としてはどのように対応すればよいでしょうか。
2 なぜ退職後?時効は?
退職後に企業を訴えるのはなぜでしょうか。これは、在職中よりも企業に気を遣う必要がないことや、ハラスメントの被害からまずは抜け出すことを優先するためであると考えられます。
パワハラ・セクハラなどのハラスメントによる損害賠償請求の根拠は、不法行為や債務不履行になるので、消滅時効はあるものの、ハラスメントの事実から5年間を経過するまでは訴えることが可能になります。
したがって、ハラスメントを申告していた従業員が退職してくれて安心、というわけにはいかないのです。また、ハラスメントの行為者を飛び越えて企業が訴えられるのは、使用者責任という考え方があるためです。
3 パワハラ・セクハラなどのハラスメント対策関連法における雇用管理上の措置
退職者から在職中のパワハラ・セクハラなどのハラスメントについて訴訟提起された場合、すでに対象者は退職していますが、在職中のパワハラ・セクハラなどのハラスメントにより申告者が被害を被っていた場合、企業としては、使用者責任ないし安全配慮義務違反が問われるおそれがあります。また、このようなパワハラ・セクハラなどのハラスメント申告があったにもかかわらず、何ら対処をしないということになれば、職場環境が改善されず、社内の士気にも影響するだけでなく、他の従業員に対するパワハラ・セクハラなどのハラスメント被害が発生するおそれも否定できません。
この点、パワハラ・セクハラなどのハラスメント対策関連法(労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、各施行規則等)では、事業主に対して次のような雇用管理上の措置がそれぞれ義務付けられており、パワハラ・セクハラなどのハラスメント関連指針による例示があげられています。退職者からのパワハラ・セクハラなどのハラスメント申告との関係では、次のような措置が適すると思われます。
(1)被害者に対する配慮のための措置
事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪等が考えられます。
(2)加害者に対する措置
就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワハラ・セクハラなどのハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること、あわせて、事案の内容や状況に応じ、行為者の謝罪等の措置を講ずることが考えられます。
(3)再発防止に向けた措置
職場におけるパワハラ・セクハラなどのハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワハラ・セクハラなどのハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること、労働者に対して職場におけるパワハラ・セクハラなどのハラスメントに関する意義を啓発するための研修、講習等を改めて実施することが考えられます。
4 調査対象期間
では、退職者からのパワハラ・セクハラなどのハラスメント申告に対して、企業としては何年前まで遡って調査・対応しなければならないのでしょうか。
この点、法律上何年まで遡って調査・対応しなければならないという決まりはありません。個々の事案ごとに、関係者が在職中か否か、証拠収集が容易か否かといった要素を考慮に入れながら、職場環境の改善、再発防止等の趣旨に鑑み、何年前まで遡って調査・対応するべきか、検討することが必要でしょう。
5 調査結果等に納得しない退職者に対する対応
調査結果と是正措置を完了し、退職者に通知したものの、退職者が納得しない場合や、訴訟が係属中であるにもかかわらず執拗に企業に嫌がらせをしてきたり、SNSに会社を誹謗中傷するような内容の投稿をしてきた場合、企業としてはどのように対応すればよいのでしょうか。
この点、パワハラ・セクハラなどのハラスメント被害を申告してきている退職者であっても、不法行為に該当するような言動は違法となり、不法行為責任を負います。嫌がらせの内容にもよりますが、退職者の行為が、業務妨害等の不法行為に該当すると考えられる場合は、会社の代理人弁護士から申告者に対して、警告文を送る等の対応を検討する必要があるでしょう。
なお、退職者が通報窓口に執拗に連絡してくる等、業務に支障が生じた場合、通報窓口の受付業務の一部を代理人弁護士に委任することもできると考えられます。規程や誓約書にも、その旨定めておくとよいでしょう。
6 まとめ
上記のとおり、退職者からのパワハラ・セクハラなどのハラスメントについて訴訟が提起された場合、企業が何ら対応をしないということになれば、訴訟で不利になるだけでなく、様々な不都合が生じるおそれがあります。個々の事案ごとに、ハラスメントに該当するのかどうか、調査や証拠収集が容易か否か、職場においてハラスメントを防止するための施策が取られていたのか等、企業側に責任が生じる様々な事情を考慮し検討していく必要があります。パワハラ・セクハラなどのハラスメント申告への対応についてお悩みの企業様は、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。