【中小企業必見】パワハラ防止法のパワハラ対策義務化による放置のリスクと今すぐできる対策とは?
目次
1.パワハラ相談の急増と中小企業の課題
近年、職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の相談件数は増加の一途をたどっており、厚生労働省の調査によれば、パワハラ防止法施行後の労働局への相談は1万8000件を超えています。大企業に比べてコンプライアンス体制の整備が遅れがちな中小企業では、パワハラ問題への対応が後手に回るケースも少なくありません。
とりわけ、限られた人員で業務を遂行する中小企業においては、上司と部下の距離が近い反面、「叱責」と「ハラスメント」の境界があいまいになりやすく、問題が表面化しにくい傾向があります。しかし、見過ごされたパワハラは、職場環境の悪化、優秀な人材の流出、企業イメージの低下、さらには損害賠償請求など、重大な経営リスクに直結します。
2.パワハラ防止法とは?
「パワハラ防止法」とは、正式には「労働施策総合推進法」の改正によって企業にパワハラ対策を義務付けた法律です。大企業に対しては2020年6月から、中小企業に対しても2022年4月から義務化され、すべての企業が対応しなければならなくなっています。
この法律に基づき、企業は以下のような措置を講じる必要があります:
• パワハラ防止の方針等の明確化と周知・啓発
• 相談窓口の設置と適切な対応体制の整備
• 事後の迅速かつ適切な対応(事実確認・再発防止策など)
• 被害者・行為者のプライバシー保護等の配慮
これらを怠ると、厚生労働省から指導が入るだけでなく、法的責任や社会的批判のリスクが伴います。中小企業であっても「知らなかった」「忙しくて対応できていない」は通用しない時代になっています。
3.パワハラ対策を怠った場合の危険性
パワハラ対策を放置したままにすると、企業はさまざまなリスクを負うことになります。まず挙げられるのは、被害者が労働局や弁護士に相談した場合、企業に対して損害賠償請求がなされる可能性がある点です。
実際の裁判例でも、会社側がパワハラを放置したことによる「使用者責任」や「安全配慮義務違反」が認定され、数百万円単位の賠償が命じられた事例があります。また、パワハラ問題が報道されることで企業イメージが毀損され、取引先や顧客からの信頼を失うといった二次被害も発生します。
さらに、労働環境の悪化は、社員の士気低下や退職の連鎖を引き起こし、慢性的な人手不足を招くことにもつながります。このような負のスパイラルを防ぐためにも、パワハラ対策は早期に、かつ具体的に講じる必要があります。
4.実際に訴訟になった事例
パワハラを巡るトラブルは、実際に裁判に発展し、企業側に高額の損害賠償責任が認められるケースもあります。ここでは、中小企業でも無関係ではないパワハラ問題のリスクを具体的に理解するため、代表的な判例をご紹介します。
ゆうちょ銀行事件(徳島地裁平成30年7月9日判決)は、上司らによるパワハラによって従業員が自殺したとして、その遺族が会社を訴えた事案です。
裁判所は、上司による強い叱責や呼び捨ては適切さに疑問があるが、頻繁なミスへの業務上の指導であり、人格否定にまでは至らないため、違法とは認められず、会社や上司に不法行為責任は認められないとしましたが、部下の不調や自殺願望が人間関係に起因すると予測できた以上、上司は業務軽減に加えて異動も含めた対応をすべきであり、十分な配慮を怠ったことで会社の安全配慮義務違反を認定しています。
特徴的なのは、従業員がパワハラを訴えていなかったという会社の主張について、部下が人間関係のトラブルを抱えていることは会社も把握可能であったため、通報がなかったことを理由に配慮を怠るのは不当であるとしたところです。
パワハラは、たとえ日常の業務指導の一環であっても、その言動や頻度、背景事情次第では、違法と判断される可能性があります。経営者や管理職が無意識に行っている言動が、後に重大な法的責任を問われることもあるのです。
5.今すぐできるパワハラ防止対策
パワハラ防止法により、すべての企業にパワハラ防止措置の実施が義務づけられた今、対策の遅れは法的リスクのみならず、企業の信頼性や人材確保にも大きな影響を及ぼします。中小企業であっても、すぐに実行できる対策を講じることで、職場のトラブルを未然に防ぐことが可能です。以下では、今日から実践できる具体的なパワハラ防止対策をご紹介します。
① パワハラ防止方針の策定と社内周知
まずは、パワハラを容認しないという企業の明確な姿勢を打ち出すことが重要です。就業規則や社内規程に「パワハラを禁止する旨」を明記し、全従業員に対して周知を行いましょう。
周知の方法としては:
• 社内掲示板やイントラネットでの告知
• 朝礼やミーティングでの口頭説明
• 従業員ハンドブックへの記載
などが考えられます。
② 社内研修・管理職教育の実施
上司による言動がパワハラに発展するケースは少なくありません。特に管理職には、パワハラの定義や境界線を正しく理解させることが必要不可欠です。
• 年1回のハラスメント防止研修(外部講師の活用も効果的)
• 管理職向けeラーニングの導入
• 実例を交えたグループディスカッション
これらを通じて、意識改革を促しましょう。
③ 相談窓口の設置と対応体制の整備
パワハラの芽を早期に発見するためには、相談しやすい窓口の設置が重要です。相談窓口は、男女両方の担当者を配置するなど、利用しやすい体制を心がけましょう。
また、相談があった場合には:
• 迅速に事実確認を行う
• 当事者双方に配慮した聞き取りを実施する
• 記録を文書で残す
といった、公平かつ機密性の高い対応が求められます。
④ 再発防止策の検討・実施
問題が発生した後は、原因分析と再発防止策の徹底が必要です。例えば:
• 該当部署への再研修
• コミュニケーションの改善(1on1面談の導入など)
• 人事異動による職場環境の調整
など、企業規模や実情に応じて柔軟に対応を検討しましょう。
これらの対策は、すぐにでも着手できる内容ばかりです。厚生労働省も「パワーハラスメント対策導入マニュアル」などを提供しており、参考にすることで自社の現状把握にもつながります(参考:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/)。
6.パワハラが起きてしまった場合の対応と弁護士の活用方法
いかに事前対策を講じていても、職場でパワハラが発生してしまう可能性はゼロではありません。問題が顕在化した際に、企業として適切な対応をとれるかどうかが、法的リスクや職場の信頼回復に大きく影響します。ここでは、パワハラ発生時の対応と、弁護士をどのように活用すべきかについて解説します。
(1)初動対応の重要性
パワハラが発覚した場合、初動対応を誤ると被害の拡大や法的責任の発生に直結します。以下のような対応が求められます:
• 速やかな事実確認:被害者と行為者の双方に対し、冷静かつ中立的にヒアリングを実施します。証言だけでなく、メールや録音などの証拠も確認しましょう。
• 一時的な接触回避措置:被害者が安心して働けるよう、加害者との距離を確保する必要があります。必要に応じて部署異動や休職措置なども検討します。
• 記録の保存:対応内容は文書として残し、後日のトラブルに備えましょう。
対応を怠ったり、被害者に不利益な扱いをしたりすると、企業の使用者責任や安全配慮義務違反が問われることになります。
(2)弁護士に相談するタイミングとメリット
パワハラの初動対応段階から、労働問題に詳しい弁護士へ相談することを強くおすすめします。弁護士を活用するメリットは以下のとおりです:
• 法的観点からの適切な判断:パワハラに該当するか否か、処分の妥当性、再発防止策の有効性などについて、法律に基づいた助言を受けることができます。
• 従業員とのトラブル防止:被害者や加害者との対応において、言動が二次被害や訴訟リスクにつながるおそれもあるため、第三者の視点が不可欠です。
• 社内規程・処分内容の検討:就業規則や懲戒規程に則った処分を講じる際、違法・不当な処分とならないよう助言を受けられます。
事後対応の場面で弁護士を活用することにより、企業の信用と法的リスクの両面を守ることが可能になります。
(3)顧問弁護士を利用する
パワハラ問題への迅速かつ適切な対応のためには、日頃から顧問弁護士と連携しておく体制を整えることが有効です。顧問弁護士を活用することで:
• 社内規程の整備や研修など、予防段階からの支援
• 問題発生時の即時相談・対応指示
• 労働局対応や訴訟対応までの一貫支援
が可能となります。
パワハラ防止は一過性の取り組みではなく、継続的な体制整備と早期対応の習慣化が不可欠です。特に中小企業にとっては、社内の限られたリソースを補う意味でも、外部の法的専門家の力を借りることが重要です。
万が一、パワハラ問題が起きてしまった場合でも、適切な対応と弁護士による支援があれば、大きな損失を回避することができます。貴社のパワハラ対策体制の見直しや相談窓口整備などに不安がある場合は、当事務所へお気軽にご相談ください。