タクシー会社に特有の労務問題
1.タクシー会社特有の勤務形態と労務管理の難しさ
タクシー会社で一般的に採用されている勤務形態に、「隔日勤務制」というものがあります。タクシー業界では、深夜、特に終電後の時間において一定の需要があることから、「出番」といわれる1回の出勤時間における拘束時間を21時間以内とし、「明け」といわれる勤務終了後20時間以上の休息時間を設ける勤務形態のことです。
給料は、労働の対価ですから、たとえ拘束時間が21時間であったとしても、休憩中には給料が出ないことは当然です。
しかしながら、ここでタクシー業界特有の問題が生じます。タクシー会社は、労働時間を把握するため、タコメーターと呼ばれる運行記録用計器を車両に設置するなどして、労働時間を把握しようとしています。
しかし、タコメーターでは、走行距離は測れますが、タクシーが止まっている間に乗務員が何をしているかがわかりません。すなわち、客待ちなのか休憩なのかがわからないのです。労働時間か休憩時間か分からなければ、対価を支払うべきかどうかもわかりません。
結果として、乗務員から労働時間に対する給料が支払われていないとして、残業代の支払請求訴訟等につながることも少なくありません。
また、乗務員同士は横のつながりが強い傾向にあることから、一度未払い残業代請求が認められれば、他の乗務員らにも波及し、一斉に未払い残業代を請求されるといった事態が生じるおそれもあります。
さらに、問題はそれだけではありません。当然といえば当然なのですが、タクシーは走行時間と売り上げが一致しないのです。
具体的な例で考えてみましょう。タクシー乗務員の賃金を完全に一律にした場合、売り上げが良くても給料に反映されないため、これでやる気を出す乗務員はいないでしょう。他方、完全歩合制にした場合、乗務員のやる気は出るが、労働時間が長くても売り上げが少なかった者は、給料が少なく、結果として1時間単位の最低賃金割れを起こす可能性があります。そうなってしまえば、会社は労働法違反を犯すことになりかねません。
結果的に、固定給と歩合制を併用するといった給料体系を採用するというタクシー会社が多くなります。
2.まとめ
このように、タクシー業界においては、その特殊性から、様々な固有の問題があり、労務時間管理を一層難しくしています。
タクシー会社の労務問題にお困りの経営者の方は、是非、同業界に精通した弁護士にご相談されることをお薦めします。