未払残業代請求

1 増加する未払残業代請求の現状

(1)現状

未払残業代を支払った企業数、支払われた従業員数、支払われた金額は次のとおり、いずれも増加傾向にあります。

①2012年度 1,277社 1,023百人 1,045,693万円

②2014年度 1,329社 2,035百人 1,424,576万円

(出典:厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果」)

(※未払い残業代の支払い額が1社につき合計100万円以上となった事案を取りまとめたもの)

(2)増加する理由

未払残業代請求が増加する理由としましては、労働者の権利意識の高まりがあげられます。特に、近時インターネット等による情報提供によって、未払残業代問題及び請求方法について、容易に情報を入手できることが背景にあると思われます。

(3)対策の重要性

未払残業代問題の特徴は、請求をしてきた当該労働者だけではなく、他の現在や過去の労働者にまで対象が及ぶ可能性があり、波及効果が大きいという点にあります。

また、会社だけでなく役員にまで賠償責任が認められたり、不法行為責任により未払残業代請求の期間が3年間認められたりする等、残業代の問題を巡る状況は変化を続けています(昭和観光事件/杉本商事事件)。

このように未払残業代は、適切かつ早期に対策をとらなければならない重要な問題といえます。

未払残業代問題といえば、とかく労使の対立構造を想定しがちですが、そのように考えるのではなく、適切に対処することで、労使間の信頼関係を築き、労働意欲の向上・組織力の向上を目指すのが大切でしょう。

未払残業代請求のルートと相手方

1. 請求のルート

労働者が未払残業代を請求してくる場合、様々な請求ルートが考えられます。

具体的には、

①辞められた労働者も含め、労働者本人が請求してくる場合
②弁護士を代理人として選任して請求してくる場合
③労働組合を通して請求してくる場合
④労働基準監督署を通して請求してくる場合などが考えられます。

ここでいう労働組合は、合同労組(ユニオン)も含みます。

2.請求の相手方

未払残業代請求の相手方となるのは、①原則として会社や法人などの使用者です。

但し、場合によっては、②取締役又は理事などや、③監査役又は監事なども 相手方として請求される場合があります。

この点、会社が残業代の支払いを一切していない場合、取締役や監査役がこれ を知りながら放置していた等の事情があるとき、損害賠償責任を負うこともありますので、ご注意ください。
(昭和観光事件/大阪地判平成21年1月15日)

未払残業代は請求するルートや請求される相手方によって、それぞれ特徴や対 応方法が異なりますので、未払残業代の問題にお困りの方は、労働問題に詳しい弁護士にご相談することをお勧めします。

未払残業代の請求内容

1.未払残業代請求の内容

未払残業代の請求と一言でいっても、その内容は様々です。

大きくわけると、①未払残業代、②①の遅延損害金、③付加金、④③の遅延損害金の4つがあげられます。

まず、①未払残業代とは、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する各割増賃金があります。また、②①の遅延損害金として、退職日まで年6%(株式会社の場合など)と、退職日の翌日以降14.6%が発生する可能性があります。

さらに、③付加金として、裁判所が労働者の請求によって残業代不払いの程度・態様・労働者の不利益の内容など、諸般の事情を考慮し、決定します。ただし、その金額はMAX2倍まで、労働訴訟において決定されるものであり、労働審判においては決定されないことに注意してください。

そして、④③の遅延損害金として、裁判確定時より年5%の遅延損害金が発生する可能性があります。

なお、和解する場合、②~④は除くのが一般的です。また、付加金狙いが疑われる訴訟の場合、早期の和解又は供託を検討することをお勧めします。

残業問題でお悩みの経営者の方は、是非、労務問題に詳しい弁護士へご相談ください。

管理監督者問題

(1)管理監督者性

労働基準法における労働時間、休憩および休日に関する規定は、「監督若しくは管理の地位にある者」には適用されません(労基法41条2号)。管理監督者については、労働時間の管理・監督権限を有することから、自らの労働時間を自らの裁量で規律することができ、かつ、管理監督者の地位に応じた高い待遇を受けているため、労働時間の規制を適用するのが不適当とされているためです。

では、「監督若しくは管理の地位にある者」とは、どのような者をいうのでしょうか。この点をめぐって、近年、争われるケースが多発しています。

管理監督者にあたるかに関しては、職位の名称にとらわれることなく、職務内容や勤務形態、権限などの実態に即し判断すべしとされています。一般的には、次の3つの要件をすべて充足する場合には、管理監督者性に該
当すると考えられています。

① 当該労働者が経営者と一体的立場にあること

管理監督者は経営者に代わって同じ立場で仕事をする必要があり、その重要性や特殊性から労働時間等の制限を受けません。経営者と一体的な立場で仕事をするためには、経営者から管理監督、指揮命令にかかる一定の権限をゆだねられている必要があります。たとえば、経営会議に参加している、採用面接を行っている、評価面接の考課者を務めている等の事情が考えられます。

② 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていないこと

管理監督者の出退勤時間は厳密に決めることはできません。出退勤時間も自らの裁量に任さていることが必要です。遅刻、早退に対して減給制裁も行うことはできません。

③ その地位にふさわしい待遇がなされていること

管理監督者はその職務の重要性から、地位、給料その他の待遇において一般社員と比較して相応の待遇がなされている必要があります。たとえば、直近下位の割増賃金が支払われる地位にある者と比べて、月給、賞与等も含め相当程度の格差があるという事情が考えられます。

(2)立証方法

では、実際に管理監督者性が問題となった場合、会社としてはどのような立証方法が考えられるでしょうか。

具体的には、上記3つの要件を意識して立証していくことになります。たとえば、会社全体の組織図による当該労働者のポジションの説明をしたり、決裁権限については、他の役職者も含め、会社全体の中で、当該労働者がどこまでの決済権限を有しているのかという点を明確にするために、一覧表等にまとめるといったことが考えられるでしょう。

また、勤務や出退社について、自由裁量を有していることを基礎づける事情も考えられます。

会社によって組織や職制は様々ですので、上記3つの要件を満たすか否かは一律には判断できません。これまでにも多数の裁判例も出ていますので、管理監督者の問題でお悩みの経営者の方は、是非、労務問題に詳しい弁護士へご相談ください。

 

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