メンタル不調社員に対する会社側の法的対応と注意点

メンタルヘルス不調を抱える社員への対応は、近年の企業経営において避けては通れない最重要課題の一つです。適切な対応を誤れば、安全配慮義務違反による損害賠償請求や、解雇無効などの法的リスクを招く恐れがあります。
本稿では、最新の裁判例や実務上の留意点を踏まえ、経営者や人事担当者が知っておくべき「メンタルヘルス不調社員への適法かつ適切な実務対応」について詳説します。

1. メンタルヘルス不調の定義と初期対応の重要性

メンタルヘルス不調とは、うつ病などの診断名があるものだけでなく、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康や生活の質に影響を与える精神的・行動上の問題を幅広く含みます 。

職場では、以下のような「勤怠不良」や「パフォーマンス低下」として現れることが一般的です。
• 断続的な遅刻・欠勤
• ミスの増加、効率の低下(集中力低下による)
• 対人関係のトラブル(易怒性や攻撃性の高まり)
単なる「能力不足」や「やる気の問題」と判断して厳しく叱責することは、病状を悪化させるだけでなく、パワハラと判断されるリスク(不法行為責任)を伴います 。

2. 医療機関の受診勧告と受診命令

社員にメンタル不調の疑いがある場合、まずは丁寧なコミュニケーションを通じて受診を勧告し、診断書の提出を求めることが基本です 。
受診命令の法的根拠
社員が受診を拒否する場合、就業規則に根拠規定があれば、会社は産業医や指定医への受診を命じることができます(電電公社帯広局事件・最判昭61.3.13) 。
また、規定がない場合でも、会社の「安全配慮義務」と労働者の「自己保健義務」に基づき、合理的・相当な理由があれば指定医の受診を命じることは可能と解されています(京セラ事件・東京高判昭61.11.13 。
受診拒否への対応
受診命令に従わないからといって、直ちに懲戒処分を下すのは避けるべきです 。むしろ、受診拒否の原因となっている言動を「規律違反」として注意・指導したり、人事上の措置(異動や降格)を検討したりする方が実務上は無難です 。

3. 休職命令の実務と留意点

病的な言動により業務に支障が出ているものの、本人が認めない場合、会社が「休職」を命じることが検討されます。
休職命令の有効性
休職を命じるには、就業規則に根拠規定があること、および「休職相当性(傷病により労務提供が不適切であること)」が必要です 。 判例では、単に症状が再発する可能性があるというだけでは足りず、「(原告の本件疾病が就業規則48条1項(1)の傷病欠勤と実質的に同視できるものであって)、通常勤務に支障が生じる程度」であることが求められます(富国生命保険事件・東京地裁八王子支部判平12.11.9) 。
休職制度の趣旨
私傷病休職制度は、継続的な雇用を確保する観点から、一定期間、労働者に対し、就労義務を免除し、その間療養させ、解雇を猶予する制度です 。休職制度を適用せずにいきなり解雇すると、解雇権の濫用(労働契約法16条)とみなされ、無効となる可能性が非常に高いため注意が必要です 。

4. 復職判断と「治癒」の立証責任

休職期間が満了に近づくと、復職の可否を判断しなければなりません。
復職の基準
復職が認められるための「治癒」とは、原則として「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復すること」を指します 。 ただし、判例(片山組事件・最判平10・4・9)によれば、職種が限定されていない場合、他の軽易な業務であれば遂行可能で、かつ配置転換の現実的可能性があり、その提供を申し出ているならば、復職を認めるべきとされています 。
立証責任の所在
実務上非常に重要なポイントとして、立証責任の所在が挙げられます。
復職時(治癒の証明): 労働者側に立証責任があります(伊藤忠商事事件・東京地判平25.1.31) 。
休職事由(復職の取消事由): 使用者(会社)側に立証責任があります(フィデリティ証券事件・東京地判令和6.12.10) 。
主治医が「復職可」としても、会社側が疑わしいと判断する場合は、産業医の見解を重視して退職・解雇を有効とした事例もあります 。

5. 休職を繰り返す社員への対策(通算規定)

メンタル疾患は再発しやすいため、復職と欠勤を繰り返す社員への対応が課題となります。
通算規定の整備
復職後一定期間内(例:6ヶ月以内)に同一・類似の傷病で欠勤した場合、前の休職期間と合算して計算する「通算規定」を設けることが有効です 。 この規定の新設・変更は労働者にとって不利益変更となりますが、近年のメンタル不調者急増への対応という観点から、必要性・合理性が認められやすい傾向にあります(野村総合研究所事件・東京地判平20.12.19) 。
解雇の有効性と回復可能性
休職期間が満了しても回復の見込みがない場合、解雇や自然退職の検討に入りますが、裁判所は「回復可能性」を厳格に判断します。
K社事件・東京地判平17.2.18: 再度の休職により回復の余地があるなら、解雇は無効 。
J学園事件・東京地判平22.3.24: 主治医から意見聴取せず、回復可能性を検討しないまま解雇したのは性急であり無効 。
会社は、解雇を強行する前に、主治医との面談や専門医への助言聴取など、「解雇回避努力」を尽くす姿勢が求められます 。

6. 精神障害・発達障害への合理的配慮

令和8年4月より、治療と就業の両立支援措置が努力義務化されるなど、配慮の必要性は高まっています 。
特に障害者雇用促進法に基づく「合理的配慮」は法的義務です。精神障害や発達障害(アスペルガー症候群、ADHD等)を持つ社員に対しては、その特性に応じた対応が必要です 。
【具体的配慮の例】
• 指示を一つずつ出す(ワンガイダンス・ワンアクション)
• 図解入りマニュアルの作成
• 業務の優先順位を明確にする
• 感覚過敏への配慮(静かな休憩場所の確保、耳栓の使用許可等)
不注意やミスを繰り返す場合でも、こうした特性への配慮を欠いたまま「規律違反」として懲戒・解雇することは、法的リスクが極めて高いといえます 。

まとめ:会社がとるべき3つのステップ

メンタル不調社員への対応は、法的な形式を整えるだけでなく、実態に即した「丁寧なプロセス」が勝敗を分けます。
1. 就業規則の整備: 受診命令権、休職期間の通算規定、復職時の診断書提出義務などを明確化する。
2. 適切な注意指導: 感情的な叱責を避け、エビデンスに基づき具体的改善を求める。不調のサインがあれば速やかに受診を促す。
3. 専門医・産業医との連携: 主治医の診断のみに頼らず、多角的な意見を聴取して回復可能性を慎重に判断する。
法的リスクを最小限に抑えつつ、社員の健康を守り、健全な企業秩序を維持するために、まずは貴社の規程と対応フローの総点検をお勧めいたします。

本記事の内容について、より詳細な法的助言や規程の改定が必要な場合は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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