残業代の消滅時効期間が1.5倍に!今からでも遅くない未払い残業代対策について弁護士が解説

1 残業代請求の消滅時効期間が2年から当面3年に延長

残業代も,労務の対価として支払われる賃金であるところ,これまで,労働基準法115条は,退職金を除く賃金債権の消滅時効期間を2年間としていましたが,令和2年4月1日,消滅時効期間は5年間に改正され,経過措置として,当分の間は,これを3年間とすることになりました。

2 残業代請求の消滅時効期間が3年に延長された経緯

民法は,平成29年に改正され,令和2年4月1日から施行されていますが,改正前の民法174号1号は,「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」は,1年間これを行使しないことにより時効により消滅すると規定していたことから,労働基準法は,労働者にとって重要な日給や月給の請求権が1年で消滅することは労働者の保護に欠けるといった理由から,賃金の消滅時効期間を2年間としていました。

ところが,現行民法は,上記の規定を削除し,債権の原則的な消滅時効期間について,「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」又は「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」と定めた(民法166条1項1号・2号)ことから,賃金の消滅時効期間について,民法の規定よりも労働基準法の規定の方が労働者に不利になることになったため,民法とのバランスを踏まえて,労働基準法も改正することとし,労働基準法も賃金の消滅時効期間を5年間としました。

もっとも,賃金の消滅時効期間を直ちに5年間とすることは,労使の権利関係を不安定にし,また,紛争の早期解決,未然防止という消滅時効が果たす役割への影響等を踏まえて慎重に検討する必要があることから,当分の間,賃金台帳の保存期間(労働基準法109条)と合わせて3年間の消滅時効期間とすることになりました。

3 残業代請求の消滅時効期間が延長されたら起きること

労働審判手続や訴訟などの法的な手続で残業代を請求された場合,使用者が支払わなければならない残業代が300万円以上となることも少なくありません。消滅時効期間が2年間から3年間に延長されることで,単純に計算すると,請求される残業代も1.5倍の450万円に増えることになります。将来,消滅時効期間が5年間に延長された場合は,請求される残業代は2.5倍の750万円になります。

さらに,残業代の未払いがある場合,未払いが一人だけということはなく,他の従業員に対しても未払いがあることが普通です。未払いがあるすべての従業員から残業代を請求されれば,支払わなければならない金額は相当高額となり,中小企業にとっては経営破綻の危険すらあるといえます。

4 残業代の時効延長に伴い,取り組むべき企業側の対応

(1)残業代紛争の予防

労働基準法上,支払い義務のある残業代は,従業員との交渉により減額できることはあっても,使用者の一存で支払わなくてよいことにはできません。このため,残業代を発生させないことが第一ですが,発生した残業代は直ちに全額支払うことが重要です。

(2) 労働時間の管理・圧縮

残業代の金額を把握するためには,労働時間を客観的に管理しておかないといけません。タイムカードの打刻を義務付けるなど,徹底した労働時間の管理が必要です。
また,残業を承認制にして定時退社を徹底することで,労働時間を圧縮することも必要です。定時退社が困難なほど従業員の業務量が多い場合は,新たに従業員を採用し,人員を補充することも検討すべきでしょう。

(3)固定残業代の見直し

固定残業代を支払っている場合は,その支払が残業代の支払として有効かどうかを検証することがとても重要です。判例上,固定残業代の支払が残業代の支払として有効となるためには,明確区分性と対価性という要件を満たすことが必要とされ,その認定は厳格になされています。固定残業代の残業代としての支払の有効性が認められなかった場合,残業代を一切支払っていないことになるだけでなく,固定残業代として支払った分も,残業代を計算するための基礎賃金として扱われてしまうため,予想をはるかに超える残業代の未払いが発生することになり,中小企業にとっては死活問題になりかねません。

(4)確実に残業代を支払うこと

支払うべき未払いの残業代がある場合,その支払を免れる方法はないといってよく,支払いを遅滞すれば遅延損害金も付加されます。したがって,未払いの残業代があることが判明した場合,すみやかに全額を支払うことが肝要です。

5 残業代請求に関する相談は当事務所へ

残業代の請求は,弁護士を代理人として請求されることが通常です。このため,未払いの残業代がゼロということはまずあり得ません。対応を間違え,労働審判手続や訴訟に移行してしまうと,交渉による減額の余地も狭まります。

残業代を請求された場合は,すみやかに当事務所へご相談ください。

 

 

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