チェック・オフ

1 チェック・オフとは

(1)まず,チェック・オフとは,使用者が組合員の給与から組合費を控除し,一括して労働組合に引き渡す制度です。労働組合において,組合費を確実に徴収できるようこの制度が設けられています。

 

(2)もっとも,チェック・オフには,①賃金全額払の原則(労働基準法24条1項)②組合員個々人の支払委任の要否,③チェック・オフ協定破棄の不当労働行為性などの問題点があります。

 

2 ①賃金全額払の原則について

(1)労働基準法24条1項本文には,「賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない」と記載されており,賃金全額払いの原則を定めています。そのため,この条文との関係でチェック・オフが問題になってきます。

 

(2)同条但し書きにおいて,法令に定めがある場合を別とすれば,事業場の労働者の過半数代表者との書面協定による場合にのみ例外を認めています。

チェック・オフは,前述のように,組合費を給与から控除するわけですから,賃金全額払い原則に反しますから,上記の例外要件を満たす必要があります。過去の裁判例も,済生会中央病院事件(最二小判平元.12.11民集43巻12号1786頁)において,「チェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものに他ならないから,労基法24条1項但書の要件を具備しない限り,これをすることができない」旨を判示しています。

 

3 組合個々人の支払い合意の要否について

(1)上述で述べた通り,チェック・オフは,労働基準法24条1項に基づく賃金全額払いの原則があるため,例外要件を充たすため過半数労働者との書面による協定が必要です。

 

(2)では、チェック・オフを行うに際し,組合員の個別の同意(支払委任)が必要かという点が問題になります。

この点,判例(最一小判平5.3.25労判650号6頁)によりますと,「使用者が適法にチェック・オフをなしうるには,労働組合との協約・協定では足りず,個々の組合員から,賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことについて委任を受けることが必要であり,チェック・オフ開始後も個々の組合員からその中止の申し入れがあれば,当該組合員に対するチェック・オフを中止すべきである」といった判断を示しました。

 

(3)そのため,チェック・オフを適法になしうるには,過半数労働者との書面による協定をするほか個々の組合員から個別の同意を得ることが必要であるといえます。

 

4 会社側から一方的にチェック・オフ制度を廃止できるか

(1)チェック・オフ制度の導入には上述のとおり会社と過半数代表者と協定を締結する必要があります。協定は会社と過半数代表者双方の合意により成立するものです。そのため,協定を締結する自由もあれば,締結した後に会社側から廃止できる自由もあり,会社側から一方的に廃止できるとも思えます。

 

(2)しかしながら,一度チェック・オフ制度を導入した場合に,合理的根拠なしにそれを廃止することは原則として不当労働行為及び不法行為にあたると過去の裁判例で判断されています。

 

(3)以上より,会社側から一方的にチェック・オフ制度を廃止することはできませんので,過半数代表者と十分協議することが必要であるといえます。

 

5 会社側は労働組合からのチェック・オフ導入申し入れを拒否することができるか

(1)チェック・オフは,労働組合において組合費を確実に回収できるため利便性が高く,労働組合からチェック・オフ制度の導入を求められることがあります。

 

(2)もっとも,会社側において,チェック・オフ制度の導入の申し入れに対して応じる法的義務はありません。あくまで過半数代表者との協定により導入をすることができますので,拒むことはできます。

 

(3)しかし,会社側がチェック・オフ制度の導入を拒んだ場合,労働組合が会社に対して団体交渉を申し入れてくる可能性があります。団体交渉とは,労働組合が使用者等に対して労働協約・協定に締結その他の事項に関して交渉することです。仮に団体交渉を行っていくことになりますと,その準備や対策が必要になります。また,団体交渉が長期化したりする場合もあるため,会社の負担が大きくなります。そのため,労働組合からチェック・オフ制度の導入の申し出があった場合には真摯に協議し,双方が納得する方向で話を進めていくことが必要になります。

 

6 まとめ

以上がチェック・オフ制度に関する記事となります。チェック・オフ制度は労働組合にとって利便性が高いですが,一度締結すると会社側から廃止することが難しく,会社の負担になる場合もあります。チェック・オフの導入に際し慎重な判断が必要になりますが,締結を拒み続けていると労働組合から団体交渉を申込まれる可能性もあります。そのため,チェック・オフ制度の導入については過半数代表者や組合としっかり協議していくことが必要です。

 

もし組合側との協議やその対応について困りごとがありましたら,この分野に詳しい弁護士に一度ご相談ください。

 

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