休業手当

1 はじめに

一定の条件に該当する休業の場合、使用者は労働者に休業手当を支払うことが義務付けられています。
以下では、この休業手当について解説していきます。

2 休業手当とは

本来、雇用契約(労働契約)は、労働者の労務提供に対して使用者が対価として賃金を支払う契約であり、労働者が労働していない期間については賃金が発生しないのが原則です(ノーワーク・ノーペイの原則)
もっとも、会社都合による休業の場合に、労働者が全く賃金を得られないとなれば生活に支障を来すおそれがあるため、労働基準法26条は「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と定めており、ここでいう平均賃金の6割の「手当」がいわゆる休業手当に該当します。
なお、平均賃金とは、直近3カ月間の賃金総額を、休日等を全て含む暦日数で除した金額のことをいいます。

3 休業手当を支給しなければならない場合

上記のとおり、休業手当は「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合」に支払義務が発生するため、「使用者の責めに帰すべき事由」とはどのようなものであるかが問題となります。

(1)民法上の定め

ここで、そもそも民法536条2項は、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と定めており、使用者の「責めに帰すべき事由」により休業(労務の提供が不能)となったときは、(労働者が労務提供を行っていないにもかかわらず)使用者は賃金全額の支払義務を負うこととされております。
ここでいう「責めに帰すべき事由」とは、従来、債権者(使用者)の故意、過失又は信義則上これと同視すべき事由を意味するものと解されてきました。
つまり、休業につき使用者に過失等が認められる場合には、(平均賃金の6割ではなく)賃金全額を支払わなければならないことになります。

(2) 「使用者の責めに帰すべき事由」の内容

この点をふまえ、最高裁判所の判決では、休業手当について、以下のように判示されています。「休業手当の制度は…労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしている…。そうすると、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とする…。「使用者の責に帰すべき事由」とは…民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。」
すなわち、休業手当の制度は、民法上の使用者の「責めに帰すべき事由」までは認められない(従って、賃金全額を支給する必要はない)場合であっても、労働者の生活保障の観点から広く使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業について、平均賃金の6割の限度で保障することを義務付けた制度と位置付けられているのです。
このように、判例上も、いかなる場合に休業手当の支給が必要となるかについて明確な基準があるとはいえませんが、例えば、電力会社都合での停電による休業手当は、「使用者側に起因する経営、管理上の障害」にあたると考えられています。

4 不支給のリスク

休業手当の不払は罰則の対象とされており、また労働者からの請求があれば、未払分の休業手当と同額の付加金の支払を命じられる場合がありますので、注意が必要です。

5 最後に

以上のように、会社都合での休業については休業手当の支給が義務付けられており、不支給に対しては罰則が定められている一方で、いかなる場合に休業手当を支払うべきか等については、法的専門知識なくして判断することが難しいといえます。
もし、「休業手当の支給をめぐって争いになってしまった」といったことでお困りなら、使用者側の労働問題に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。

 

労働問題に関するご相談メニュー

団体交渉(社外) 団体交渉(社内) 労働審判
解雇 残業代請求・労基署対応 問題社員対策
ハラスメント 就業規則 安全配慮義務
使用者側のご相談は初回無料でお受けしております。お気軽にご相談ください。 神戸事務所 TEL:078-382-3531 姫路事務所 TEL:079-226-8515 受付 平日9:00~21:00 メール受付はこちら