組合が社内に複数存在する場合
1 はじめに
社内に組合が複数存在する場合には、とりわけ少数派組合と使用者との間の交渉について、紛争が生じやすいといえます。
以下では、社内に複数の組合が存在する場合の対応について解説していきます。
2 交渉の相手方になる組合
まず、組合が複数存在する場合に、使用者がいずれの組合と交渉しなければならないのかが問題となります。
この点、少数派組合との間の団体交渉における使用者の対応が問題となった日産自動車事件の最高裁判所判決によれば、「複数組合併存下にあっては、各組合はそれぞれ独自の存在意義を認められ、固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されているものであるから、その当然の帰結として、使用者は、いずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行うべきことが義務づけられている」とされています。
このように、多数派組合といえども、少数派組合を代表して使用者と交渉する法律上の権限が与えられているわけではなく、使用者としては、多数派組合のみならず、少数派組合とも誠実に団体交渉を行う義務を負います。
3 差別的取扱いの禁止
(1)最高裁判所の判断
前記日産自動車事件最高裁判所判決では、「団体交渉の場面にかぎらず、全ての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されない」旨判示されています。
なお、少数派組合に対して誠実な交渉を行わない行為が団体交渉拒否の不当労働行為に該当するだけでなく、多数派組合のみを特別扱いする場合にも、支配介入等の不当労働行為が成立しうることに注意が必要です。
(2)具体的な交渉方法
もっとも、前記判決も、多数派組合と少数派組合とで、事実上の交渉力に差異があるために、使用者が多数派組合との間で成立した合意をベースに少数派組合との団体交渉を進めようとすること自体は許容される旨の判断を示しています。
すなわち、「使用者において複数の併存組合に対し、ほぼ同一時期に同一内容の労働条件についての提示を行い、それぞれに団体交渉を行った結果、従業員の圧倒的多数を擁する組合との間に一定の条件で合意が成立するに至つたが、少数派組合との間では意見の対立点がなお大きいという場合に、使用者が、右多数派組合との間で合意に達した労働条件で少数派組合とも妥結しようとするのは自然の成り行きというべきであって、少数派組合に対し右条件を受諾するよう求め、これをもつて譲歩の限度とする強い態度を示したとしても、そのことから直ちに使用者の交渉態度に非難すべきものがあるとすることはできない」と判示しています。
4 不当労働行為に該当する場合の制裁
使用者が組合との誠実な団体交渉を行わない場合には、団体交渉拒否等の不当労働行為に該当することになります。
組合や労働者が労働委員会に救済申立てを行い、審理の結果、不当労働行為に該当すると認定された場合には、救済命令が発令されます。
救済命令に対しては、取消しを求めて訴えを提起することができますが、確定した救済命令に違反した場合には、罰則が適用されますので、注意が必要です。
5 最後に
以上のように、使用者は少数派組合についても誠実な団体交渉の義務を負っており、慎重な対応が必要になるとともに、実際の対応にあたっては、法的知見や裁判例の分析が不可欠です。
もし、「複数の組合が併存しているが、少数派組合について、どのように対応したらよいか分からない」といったことでお困りなら、労働問題(使用者側)に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
- 争議行為への損害賠償請求
- 労働組合(ユニオン)が街宣活動をしている場合の対応方法
- 労働組合からの不当な要求に対する対応例
- 労働組合からの団体交渉の申し入れから解決までを弁護士が解説
- 労働組合から未払い残業代について団体交渉を申し込まれた場合の対処法
- 労働組合との団体交渉で弁護士を入れることのメリット
- 労働組合との団体交渉で議事録の作成・録音をする必要性
- 労働組合との団体交渉と使用者の誠実交渉義務
- 労働組合との団体交渉において在籍したまま残業代を請求された場合
- 労働組合対策でやってはいけない対応
- 労組法上の労働組合ではない団体からの団体交渉について
- 合同労組・地域ユニオンへの対応
- 合意が成立する見込みがない場合の誠実交渉命令
- 団体交渉の各議題(テーマ)と対応
- 団体交渉の進め方
- 団体交渉を申し入れられたら
- 団体交渉当日までにやるべきこと
- 就業時間中に労働組合の活動を行った組合員を懲戒処分にできるのか
- 組合が社内に複数存在する場合