労組法上の労働組合ではない団体からの団体交渉について

第1 初めに

使用者が、労働組合から団体交渉を申し込まれたにも関わらず、これを無視し誠実な対応をとらなかった場合には、不当労働行為として違法となります(労組法7条2号)。
ただ、労組法には、労働組合の定義が定められており、この定義に当てはまる労働組合のみが、労組法の保護を受けることができます。
では、労組法上の労働組合に該当しない団体から団体交渉を申し込まれた際、使用者としては、労組法上の労働組合ではないことを理由に、これを拒否してもいいのでしょうか。
本記事では、団体交渉の基礎知識をおさえた上で、上記場合の使用者の対応について解説していきます。

第2 団体交渉とは

団体交渉とは、労働組合又は労働者の集団が、使用者との間で、労働者の待遇や労使関係上のルールについて交渉を行うことをいいます。具体例として、賃金アップや労働時間の是正を求めたり、個人に対する懲戒処分が不当であることを訴えたりすることが挙げられます。
団体交渉の対象事項には、義務的団交事項任意的団交事項があり、前者について、使用者が労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒否した場合には、不当労働行為として(労組法7条2号)、労働委員会からの救済命令が発せられます(同法27条)
具体的には、「当該事項に関する団体交渉を拒否してはならない」、「当該事項について理由を示して誠実に団体交渉に応ぜよ」といった内容の救済命令が出されます。労働委員会からの救済命令に違反した場合には、50万円以下の過料に処されます(労組法32条)。

第3 労組法上の労働組合

1 労組法上の労働組合とは

労組法において、労働組合は、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」と定義されています(労組法2条本文)。
すなわち、労組法上の労働組合といえるためには、①主体性②自主性③目的④団体性の4要件を満たす必要があります。
例えば、会社役員の参加を許すような団体や、団体の運営のために使用者から経費援助を受けている団体は、使用者からの独立性が認められず、自主性が否定されます(同条但書1号、2号)。そのため、このような団体は、労組法上の労働組合に該当しません。

2 労組法上の労働組合に該当しない場合

労組法上の労働組合に該当しない場合、労組法上の救済・保護を受けることはできません。そのため、不当労働行為があるとして、労働委員会に救済命令の発出を求めるということはできなくなります。
しかし、その場合でも、「勤労者の団結」と評価できれば、憲法組合として、憲法28条による保護は受けられると考えられています。
具体的には、団体交渉が正当であれば、住居侵入罪(刑法130条)や強要罪(同法223条)等に該当する行為だとしても、刑法上の「正当行為」(同法35条)として違法性が阻却され、刑事責任を問われることはありません
また、正当な団体交渉によって、使用者に損害を与えたとしても、民事責任も不問とされ、使用者は労働組合に対して損害賠償請求をすることはできません。
反対に、労働組合は、団体交渉を正当な理由なく拒否した使用者に対して、損害賠償請求(慰謝料)をする余地があると考えられています。
そのため、ある団体が、労組法上の労働組合に該当しない場合でも、それだけを理由に団体交渉を拒否すべきではなく、以下で述べるような対策をとる必要があるでしょう。

第4 団体交渉に対して使用者がとるべき対策

1 団体交渉を申し込まれたら

労働組合から団体交渉の申入れが届いた場合、事前に、団体交渉の日時、場所、時間、交渉員の人数などを当事者間で話し合って決める必要があります。
日時については、団体交渉の準備がしっかりできるよう、余裕をもって設定しておくのが望ましいでしょう。ただし、不当に交渉日を引き延ばそうとすれば、正当な理由のない団交拒否と評価される場合もあるため、労働組合に対して、準備期間の必要性を説明しておく必要があります。
そして、使用者としては、団体交渉当日までに、労働組合からの要求に対する対応を決定し、労働組合に提示する資料等を準備することになります。

2 団体交渉当日

実際に、団体交渉の席についたとしても、誠実に交渉しない場合には、誠実交渉義務違反として、違法性を帯びます。
そのため、使用者としては、労働組合からの要求に応じる義務まではないものの、資料や論拠を示しながら、自らの主張を行って、合意達成を目指すことが義務付けられます。
なお、当日の交渉は、後に発言内容の有無で揉めることがないよう、あらかじめ録音しておくか、議事録を作成しておくべきです。

3 団体交渉が終わった後

話し合いの結果、合意に達した事項については、書面化することが必要です。労働組合と使用者との間の労働条件等についての取り決めのことを「労働協約」といいます。

第5 終わりに

今回は、労組法上の労働組合ではない団体から団体交渉を申し込まれた場合の対処法について解説しました。
団体交渉の申入れがあった場合、使用者としては、応じるべき要求なのか否か検討する必要があるところ、その判断は容易ではありません。また、団体交渉に慣れていない使用者にとっては、その負担も大きいと思われます。
そこで、労働組合から団体交渉を申し込まれたが、どのように対処していいか分からないとお悩みの方は、この分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。

 

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