労働組合から未払い残業代について団体交渉を申し込まれた場合の対処法
目次
第1 初めに
労働組合が使用者に対して、団体交渉を申し込む際のテーマの1つに、労働者の賃金に関する問題がよく挙げられます。その中でも、特に未払い残業代を請求するケースは多いところ、使用者がかかる要求を正当な理由なく拒否すれば、不当労働行為として違法となってしまいます。
とはいえ、労働組合からの要求が明らかに過大な場合には、この要求に簡単に応じるわけにもいきません。
そこで、今回は、労働組合から未払い残業代について団体交渉を申し込まれた場合の対処法や、弁護士に依頼するメリットを解説していきます。
第2 団体交渉とは
1 義務的団交事項
団体交渉の対象事項には、義務的団交事項と任意的団交事項の2つがあります。このうち、前者について、使用者が労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒否した場合には、不当労働行為として(労組法7条2号)、労働委員会から救済命令が発せられます(同法27条)。
ここでいう義務的団交事項とは、労働者の労働条件その他の待遇、又は労働組合と使用者との労使関係上のルールに関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうと解されています。
そして、未払い残業代の請求を含む賃金問題は、労働者の待遇に関する事項であるため、当然、義務的団交事項に該当します。
2 誠実交渉義務
義務的団交事項に当たる場合、使用者は、団体交渉に応じなければなりませんが、単に労働組合の主張や要求を聞くだけでは足りません。使用者は、当該要求に対して、資料や論拠を提示しながら、自らの主張を行って、合意達成の可能性を模索することが義務付けられます(=誠実交渉義務)。
そのため、労働組合から団体交渉を申し込まれた場合、使用者としては、労働組合に対して、説得的な説明をするためにしっかりとした事前準備を行うことが肝心です。
第3 未払い残業代について団体交渉を申し込まれた場合
1 対処法
労働組合から未払い残業代について、団体交渉の申入れがあった場合、使用者としては、まず、労働組合の要求が法的に認められるものなのか、安易に譲歩してしまっていいものなのかを事前に検討する必要があります。
その上で、当該要求を飲まなかった場合に、労働組合が労働委員会に救済申立てをするリスクや、労働者自身が未払い残業代の支払を求めて、裁判所に訴訟を提起するリスク等を考慮に入れながら、譲歩できる一定のラインを予め決めておくことが望ましいでしょう。
このようなケースで、労働組合から、未払い残業代の額を計算するために、使用者に対してタイムカードや就業規則の提出を求めてくることがよくあります。使用者としては、当該資料を対立する相手に渡すことに抵抗を感じる方も多くいらっしゃると思います。
しかし、誠実交渉義務を尽くしたというためには、当該資料を開示することは必須であり、開示せずに合意達成に至ることは難しいでしょう。また、裁判になった場合には、事実認定のために、裁判所から必ずと言っていいほど当該資料の提出は求められるため、結局提出せざるを得ません。
さらに、ある裁判例は、以下のような判断を示しています。
「時間外手当等請求訴訟において、時間外労働等を行ったことについては、同手当の支払を求める労働者側が主張・立証責任を負うものであるが、他方で、…合理的な理由がないにもかかわらず、使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法により労働時間を算定することが許される場合もあると解される。」(スタジオツインク事件・東京地判平成23年10月25日)
タイムカード等の資料は、「容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料」といえるため、これを提出しなかった場合には、労働者の主張立証に沿った形で労働時間が算定されてしまうリスクがあります。
以上からすれば、タイムカードや就業規則は、団体交渉の段階から提示しておくべきといえるでしょう。
2 弁護士に依頼するメリット
ここまで、未払い残業代についての団体交渉を申し込まれた場合の一般的な対処法を述べてきましたが、実際にかかる問題に直面した場合には、弁護士に依頼するのが一番の解決策といえるでしょう。
単純に残業代の計算をするだけでも、使用者にとっては過大な負担となる上、残業代をめぐっては労働法上様々な法的論点(定額残業代、管理監督者性、消滅時効等)が絡んできます。
そのような場合、弁護士にご依頼いただければ、事案に応じて、合理的な主張を検討したり、法的に妥当な金額を計算したりすることができます。
また、弁護士は、使用者の代理人として、団体交渉に立ち会い、労働組合からの質問に対してその場で回答することもできます。団体交渉の場で、弁護士が説得的な説明をすることで、労働組合の納得感も得られやすいでしょう。
第4 終わりに
今回は、労働組合から未払い残業代について団体交渉を申し込まれた場合の対処法、弁護士に依頼するメリットを解説しました。
先ほども述べた通り、この問題は、弁護士に依頼するメリットが大きいといえます。
そのため、この問題でお悩みの方は、労務分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
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