争議行為への損害賠償請求
1 はじめに
近時、いわゆる地域労組(一定地域内の労働者が企業・産業を超えて組織する労働組合)と使用者との間の労働紛争が増加し、組合により強硬な交渉や争議行為が行われるケースが散見されます。
以下では、争議行為により使用者が損害を受けた場合に、その賠償を請求することができるかどうかについて解説していきます。
2 争議行為について
(1)争議権
憲法上、組合には団体行動権(28条)が保障されており、その内容として、争議行為(典型的にはストライキ)を行う争議権が認められるとされています。
正当な争議行為には、刑事免責・民事免責が認められており、使用者が損害を受けたとしても、争議行為を行った組合員等に損害賠償を請求することはできません。
もっとも、争議行為に正当性がない場合には、民法の一般原則に従い、使用者は争議行為(債務不履行・不法行為)によって受けた損害の賠償を請求することができます。
(2)争議行為の正当性
ある行為が正当な争議行為といえるかどうかは、問題となる行為の主体、目的、手続、態様に着目して判断されます。
ア 主体
団体交渉の当事者となりうる者により争議行為が行われた場合に、正当性が認められます。
組合員の一部が労働組合による承認を得ず独自に行う争議行為(いわゆる山猫スト)については、団体交渉の当事者によるものではなく、裁判例でも主体としての正当性が否定されています。
イ 目的
団体交渉上の目的事項(労働条件や団体的労使関係の運営に関する事項)のために争議行為がなされる場合に、目的の正当性が認められます。
いわゆる政治ストについては、目的の正当性が否定されます。
ウ 手続
使用者側への予告なしに行われるストについて問題になりますが、ケースバイケースで判断する必要があります。
裁判例の中には、従前の組合との交渉状況に照らし、使用者としてもスト実施のおそれを予見不可能ではなかったこと等を根拠に、予告なしに実施されたストの正当性を肯定した裁判例があります。
他方で、予告した時間を前倒しして実施されたストについて、前倒しに緊急の必要がないこと、前倒しの影響が大きいこと等の具体的事情を指摘し、正当性を否定した裁判例が存在します。
エ 態様
単なるストライキや怠業については、基本的に正当性が認められますが、暴力や脅迫といった生命・身体の安全を害する行為や、職場や社用車の不法占拠といった使用者の財産を害する行為を伴う場合、正当性が否定される傾向にあります。
また、近年増加している使用者居宅付近での拡声器を用いた演説・シュプレヒコールについて、個人の生活の平穏、行動の自由等の生活上の利益を侵害するものとして、使用者側からの差止請求を認容した裁判例があります。
3 損害賠償請求
(1)民事免責との関係
上述のように、争議行為に正当性が認められる場合(例えば、労働組合が、その意思決定に基づき、労働条件に関する従前の交渉の行き詰まりを打破すべく、適切な時期に予告した上で、予告に従い単なるストライキを実施した場合)には、これにより使用者が損害を受けたとしても、賠償を請求することはできません。
もっとも、正当性が認められない争議行為によって損害を受けた場合には、使用者は、不法行為ないし債務不履行を理由として、損害賠償請求をすることができます。
(2)請求の相手方
使用者による損害賠償請求権が認められる場合の請求の相手方(賠償義務者)は、組合及び個々の争議行為を行った組合員であると解されています。
従って、使用者は、組合又は行為者個人に対して損害賠償請求をすることができます(もちろん、二重取りが認められるわけではありません)。
4 最後に
以上のように、とりわけ近年の地域労組による争議行為については、正当性を慎重かつ早期に見極めた上で、使用者として、損害賠償請求を含む適切な措置を講ずる必要があり、その際には、法的知見や裁判例の分析が不可欠です。
もし、「団体交渉や争議行為について、どのように対応したらよいか分からない」といったことでお困りなら、労働問題(使用者側)に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
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