就業時間中に労働組合の活動を行った組合員を懲戒処分にできるのか
目次
1 はじめに
労働者の中には、就業時間中に許可なくビラ貼りを行うなどの組合活動を行うことがあります。このような従業員に対して懲戒処分を行った場合、不当労働行為に当たるなどと主張されるのではないかとお悩みの経営者もいらっしゃるかと思います。
この記事では、就業時間中の組合活動や会社の設備を使った組合活動が正当なものであるかについて解説し、正当ではない組合活動に対する対応を紹介します。
2 従業員の職務専念義務
従業員は、業務時間中、「職務専念義務」を負っています。すなわち、従業員には、業務時間中、会社側の指揮命令に服し、職務を誠実に遂行することに専念する義務があるのです。
就業時間中には、物理的に組合活動その他のプライベートな活動に従事することはもちろん、精神的にも業務に集中しなければならないとされています。
したがって、業務時間中に行われる限り、正当な組合活動とはいえません。
3 会社の施設管理権
会社は、所有、管理する施設の管理権限・利用権限をもっており、労働者に対して、許諾された目的以外に使用しないよう命じることができます。そして、これに違反する組合活動は、正当な組合活動とはいえません。
たとえば、労働組合の行うビラ貼り行為は、会社の壁や掲示板など、会社の所有、管理する施設を利用して行われるものであって、美観を損なうなど、会社にとって不利益があります。会社への影響を及ぼし、施設管理権と抵触するビラ貼りは、原則として、会社の許可がない限り正当な組合活動とはいえません。
4 正当でない組合活動への対応は
正当な組合活動は法律で保護されており、正当な組合活動を行ったことを理由とした処分を行うことは、不当労働行為に該当し、許されません。
しかし、行われた組合活動が正当なものではない場合には、労働組合あるいは労働者が、会社側との関係で民事上の責任を負うことはもちろんのこと、刑事上の責任を負うこともあります。
⑴ 懲戒処分
正当でない組合活動に対しては、会社側は民事上の責任を問うことができます。最も基本的なのは、懲戒処分です。正当でない組合活動が、就業規則の服務規定に反していないかを確認し、反している場合には懲戒処分を行うことができます。
⑵ 仮処分
正当でない組合活動が、これ以上継続しないよう、仮処分によって差し止めを求めることができる場合もあります。例えば、業務時間中にビラ貼り行為が行われている場合には、ビラ貼り付け禁止の仮処分を申し立てることが考えられます。
⑶ 損害賠償請求
正当でない組合活動によって、会社側が不利益を被った場合には、会社側は労働組合あるいは労働者に対して損害賠償請求をすることができます。例えば、不当な組合活動によって会社に貼られたビラを撤去するのにかかった費用などは、会社の損害になり、労働組合やビラ貼りを行った労働者に請求することができます。
⑷ 刑事上の責任
正当でない組合活動に対しては、組合活動に本来認められている刑事免責が認められず、刑事責任が追及されることになります。例えば、業務時間中のビラ配りは、器物損壊罪(刑法261条)、建造物損壊罪(刑法260条)に該当する場合があります。
5 おわりに
以上のように、正当でない組合活動に対しては、民事上、刑事上の様々な対処を行うことが考えられます。
ただし、労働組合からの要求を拒否したり、組合活動を理由として懲戒処分、仮処分、損害賠償請求などを行う場合には、その行為が不当労働行為にあたらないかどうか、入念に検討することが不可欠です。
労働組合、ユニオンなどの対応にお困りの方は、労働問題に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
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