Q.大量の引抜行為をする社員への対応方法
テーマ:大量の引抜行為をする社員への対応方法
質問
当社には、大変実績のある社員がいたのですが、社長との折り合いが悪く、退職してしまいました。その後、この元社員は、間もなくして競合する別会社を設立し、自身の元部下を大量に引き抜いてしまい、当社に甚大な損害が生じました。
会社としては、この元社員や新会社に対し、損害賠償請求をすることはできますか?
回答
【会社の対応方法】
1.差止・損害賠償を請求
引抜き禁止義務について合意している場合や雇用契約に付随する信義則上の義務を根拠に、元従業員に対して、差止・損害賠償を請求する(合意又は民法415条、709条)ことが考えられます。
また、競業会社に対して、損害賠償を請求することも考えられます(民法715条)。但し、後記2のように引抜行為に違法性が必要となります。
2.引抜行為の違法性
「単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえず」、他方、「転職する従業員のその会社に占める地位、会社内部における待遇及び人数、従業員の転職が会社に及ぼす影響、転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性等)等諸般の事情を総合考慮して判断」し、社会的相当性を欠く場合は、雇用契約上の誠実義務に違反し(東京地判平成3.2.25/ラクソン等事件参照)、引抜行為の違法性が認められます。
例えば、幹部社員が、会社に内密に移籍の計画を立て、一斉かつ大量に従業員を引き抜いた場合がこれに該当するおそれが高いでしょう。
3.損害との因果関係、損害賠償の範囲
損害賠償請求が認められるには、使用者に損害が生じたこと、退職社員の引抜行為と損害との間に相当因果関係が必要です。
但し、実際の裁判では、使用者が得られたはずの粗利益全額の損害賠償までは認められにくいと思われます。
その理由として、引抜行為がなくとも他の社員らが退職社員の退職を契機に会社を退職する可能性がある、損害発生の期間が区切られる、退職社員の個人的寄与の割合を斟酌し、損害賠償の範囲が決められるからです。
実際にこれらの事情を考慮して、期間として1ヶ月分、退職社員の個人的寄与5割を控除した残余の部分(870万円)のみを認めた事例がありますので、ご参考にしてください。
問題社員への対応についてお困りの経営者の方は、ぜひ一度労務問題に詳しい弁護士にご相談ください。
企業は、日々、労働組合からの団体交渉の申し入れ、元従業員からの残業代請求、ハラスメント(パワハラ、セクハラ)の訴え、解雇に伴うトラブルなど、あらゆる課題を抱えています。誰にも相談できずに悩まれていらっしゃる経営者の皆様も多いと思いますが、まずは一度、労働問題に強い弁護士にご相談ください。