有期労働契約の雇い止めの有効性
目次
1 雇い止めとは?
期間を定めて雇用される労働契約を有期労働契約といいます。有期労働契約は,契約更新がされない限り期間満了に伴い終了します。使用者が有期労働契約を更新せず,期間満了によって労働者を辞めさせることを「雇い止め」といいます。
2 雇い止めの制限(労働契約法第19条)
使用者が,有期労働契約を更新するか否かをいかなる場合でも自由に決めてよいとすると,労働者は非常に不安定な立場に置かれることになります。
そこで,労働契約法第19条には,
A)
① 実質無期契約型:有期労働契約が反復して更新されたことがあり,雇い止めをすることが,「期間の定めのない労働契約における解雇」と社会通念上同視できると認められる場合(1号)
又は
② 期待保護型:労働者が,有期労働契約の期間満了時に,その契約が更新されるものと期待することに合理的な理由が認められる場合(2号)
であって,
B)
労働者が期間満了までに更新の申し込みをした場合
又は
期間満了後遅滞なく有期労働契約の申し込みをした場合で,
C)
使用者がこれらの申し込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときには,従前の契約と同一条件で申し込みを承諾したものとするとして,雇い止めを制限する規定が置かれています。
C)の「客観的合理的理由」(客観的合理性)と,「社会通念上相当と認められる」(社会的相当性)という要件は,期間の定めのない労働契約における解雇が有効となる要件(労働契約法第16条)と同じです。つまり,労働契約法第19条は,有期労働契約であっても,上記A),B)の要件を満たす場合には,期間の定めのない労働契約と同様に労働者の権利を保護しようというものなのです。労働契約法第19条は平成24年8月10日から新たに施行されたものですが,従来の最高裁判例で確立した法理を明文化したものと言われています。
3 「実質無期契約型」と「期待保護型」の該当性の判断
① 労働契約法第19条1号の「実質無期契約型」に該当するか否かは,
a)業務の客観的内容(業務が臨時的なものでなく,恒常的なものか),
b)当事者間で雇用継続につきどのような言動・認識があったか,
c)更新の手続き(長期に渡る反復更新があったか,更新手続きが曖昧だったか,これまで他の有期労働者に対して更新拒否をしたことがないか)
などの事情を総合的に考慮して,その契約が実質的には期間の定めのない契 約と同視できるかという視点から判断することになります。
② 労働契約法第19条2号の「期待保護型」は,契約の長期に渡る反復更新が無く,更新手続きも曖昧とはいえないため,実質的に期間の定めのない契約と同視できるとはいえない場合であっても,業務内容の恒常性や当事者間の言動・認識などから,労働者が雇用継続を期待することに合理性があると認められる場合に該当するものです。
4 人員削減を理由とする雇止めにおける「客観的合理性」と「社会的相当性」
人員削減を理由とする雇止めにおいて,「客観的合理性」と「社会的相当性」の要件を検討する際には,期間の定めのない労働契約における整理解雇の要件が参考になります。裁判例上,整理解雇における「客観的合理性」と「社会的相当性」を具体化する形で,以下の「整理解雇の4要件」が設定されており,雇止めの有効性を考える場合もこの4要件を検討することになります。
① 人員削減の必要性:
経営上の理由により人員削減をする必要性があること。
② 解雇回避努力:
解雇以外の人員削減手段を用いて,解雇をできる限り回避する努力を尽くしていること。
③ 人選の合理性:
合理的な人選基準を定めて,その基準を公正に適用して対象者を決定していること。
④ 手続の妥当性:
労働者への説明を尽くし,納得を得るために誠意をもって協議を行っていること。
5 その他有期労働契約における労働者の保護
労働基準法第15条,労働基準法施行規則第5条により,使用者は,労働契約締結時には,契約期間とともに「有期労働契約を更新する場合の基準」も書面の交付によって明示しなければならないとされています(平成25年4月1日施行)。
また,厚生労働省の定める「有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準」によれば,①有期労働契約が3回以上更新されている場合や,②1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合,③1年以下の契約期間の有期労働契約が更新され,最初の契約締結から継続して通算1年を超える場合には,雇止めを行う少なくとも期間満了の30日前までに予告をした上,労働者が雇い止めの理由の明示を求めた場合には遅滞なくこれを交付しなければならないとされています(契約更新しないことがあらかじめ明示されている場合を除きます)。
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