無効な解雇を避けるための3つのポイント

 日本は解雇のハードルが高い?

「日本は解雇のハードルが高い」。皆さんも一度はこの話を聞いたことがあるのではないでしょうか。具体的には,解雇が有効なるためには,大きく3つの要件があります。以下で順に説明します。

 

2 解雇の要件①:解雇が禁止されている場合でないこと

解雇の要件1つめは,「解雇が禁止されている場合でないこと」です。日本の法律では,「こういう場合には解雇してはいけない」というルールがいくつか定められています。このように解雇が禁止されている場合に解雇をすると,当然,その解雇は無効になってしまいます。たとえば,以下のようなルールがあります。

・国籍,信条又は社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)

・労働組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法7条)

・婚姻,妊娠,出産,産休・育休取得等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)

・労災等の療養休業期間や産前産後休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法191項)

 

3 解雇の要件②:解雇権の濫用にあたらないこと(解雇権濫用法理)

a)解雇権濫用法理とは

解雇の要件2つめは,「解雇権の濫用にあたらないこと」です。解雇権濫用法理と呼ばれています。これは,解雇には,㋐客観的に合理的な理由と㋑社会通念上の相当性が必要だという法理です(労働契約法16条)。ただ,「客観的に合理的」や「社会通念上相当」というのは非常に抽象的で分かりにくいです。そこで,以下では,よくある解雇理由ごとに,解雇権の濫用だと判断されないためのポイントをお伝えします。

b)労働能力・適格性の低下・喪失による解雇

たとえば,うつ病になった,営業実勢が悪い,ミスが多い,などです。これらを理由に解雇する場合に気を付けていただきたいのは,以下の2点です。

単に能力・能率が低いだけではだめで,雇用継続を困難にするほど重大なものであることが必要です。裁判になると,「配置転換ではだめだったのか」という点が問われることが多いです。たとえば,単に営業実績が悪いだけの場合は,営業職から事務職に配置転換すればよいのであって,解雇する必要まではなかったのではないかと判断される可能性があります。

使用者として具体的な改善矯正策を講じたが改善されず,今後改善の見込みもないことが要求されるという点です。使用者としてきっちり指導をし,その証拠を残しておくことが重要です。たとえば,指導担当者が面談を行い,面談の記録を作成しておくことが考えられます。また,社内で業務マニュアルを作成し,これを労働者に配布しておくことも指導の証拠として有用です。

c)職場規律違反・業務命令違反による解雇

たとえば,セクハラ,パワハラ,犯罪行為,無断欠勤,遅刻などです。これらを理由に解雇する場合にも,指導し,改善の機会を与えたかどうかという点がポイントになります。また,その人だけに問題の責任を押し付けてよいのか(使用者としても対策をとるべきではなかったのか)というのが問われるケースもあります。

ある裁判例では,生放送に2度寝坊し放送事故を起こしたアナウンサー1人を解雇したものの,放送事故の責任をアナウンサー1人に押し付けるのは相当でなく,会社として放送事故の対策を講じるべきだったとして,解雇は無効と判断されました(高知放送事件)。

d)経営上の必要性を理由とする解雇

いわゆる人員整理です。「整理解雇」とも呼ばれます。整理解雇は,経営上の必要性(会社の都合)で解雇するわけですから,労働者は悪くありません。そのため,通常の解雇と比べて,有効性が厳格に判断されます。

整理解雇については,経営上の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の妥当性,という4つの要素を考慮して有効性が判断されます。

経営上の必要性については,使用者の経営判断が尊重されます。

解雇回避努力については,解雇する前に,新規採用を停止したり,希望退職者を募ったり,出向させたり,雇止めを行ったりして,解雇を回避しようと努めたかどうかが問われます。

人選の合理性については,勤務成績や勤続年数等をもとに,合理的な人選基準を定め,それに従って粛々と人選することが求められます。人選基準を定める際に,「責任感」や「協調性」などの抽象的な項目を入れてしまうと,使用者の恣意的な人選が行われていると判断される可能性があるので,おすすめしません。

手続の妥当性については,労働者の同意を得ることまでは求められませんが,労働者が納得できるように,説明会を開催したり,資料を配布したりしたかという点が考慮されます。

 

4 解雇の要件③:正当な手続きを経ていること

解雇の要件3つ目は,「正当な手続きを経ていること」です。日本では,解雇は30日以上前に予告しなければならないことになっています。30日以上前に予告しない場合は,30日分の給料を払わないといけません。「君は明日から来なくていい」はアウトですが,「君は明日から来なくていい。30日分の給料を払うから。」ならこの要件はクリアです。

 

5 まとめ

いかがでしたでしょうか。やはり解雇にはたくさんのハードルが設けられています。そして,その基準が抽象的で分かりにくいものもあります。安易に解雇してしまうと,あとから裁判になって多額の未払賃金を支払わなければならないことになります。解雇をご検討の方は,ぜひ事前にこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。

 

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