能力不足の社員を会社は解雇できる?
1 はじめに
会社には様々な能力の従業員が在籍しており、それぞれのパフォーマンスは一様ではありません。そうした会社に在籍する社員の中でも、業務成績や勤務態度が悪く、まわりの従業員、ひいては会社に悪影響を及ぼす従業員の存在に頭を悩ませる企業は少なくないと思われます。
近年は、日本でも成果重視の傾向が徐々に強まってきてはいますが、これまで日本社会はいわゆる終身雇用制度のもとに成り立ってきましたので、単に「能力が乏しい」という一事をもって、直ちに従業員を解雇するようなことはまだできません。かといって、会社としては、このような問題のある社員をそのまま定年退職まで会社にとどまらせておきたくはないと思われます。
以下では、こうした会社のかかえる従業員問題について、どのような対処法が考えられるのか順に見ていきたいと思います。
2 日本の解雇規制について
先程も少し述べたように、日本における解雇の有効性は、終身雇用制度を前提に解釈される傾向が今なお強く残っています。会社が、能力不足の社員を解雇した後、その社員が会社に対して何らの請求も行ってこなければ、会社が事実上法的責任を負わずにすむ可能性もありますが、他方で、その社員が労働審判や裁判といった法的な手続きにより解雇の有効性を争ってきた場合には、会社にとっては厳しい判断が下される可能性も十分あるのです。
3 解雇の有効性の判断方法
⑴ 客観的に合理的といえるか否か
一般に、解雇の有効性は、①当該解雇について客観的に合理的な理由が存在するか否か、②解雇が社会通念上相当といえるか、という2点から判断されます。
社員の職務能力が乏しい、あるいは勤務態度が悪く、周りの従業員ないし会社自体にとって悪影響を及ぼしているという事実は、この①を裏付ける事情といえます。
過去の裁判例でも、成績不良や勤務態度不良が認められるにもかかわらず、いっこうに反省の態度を示さず、改善しようとする姿勢も見受けられないといった事実を認定した上で、会社による解雇を有効とするものが多数存在しています。
もっとも、ここで注意しなければならないのは、これらの裁判例も、単にそうした成績不良や勤務態度不良といった事実だけをとらえて、解雇を有効と判断したわけではないという点です。裁判所としては、そうした不良の程度が重大なものであるといえるのか否か、会社が従業員に対して改善の機会を与えたか否か、従業員の改善の見込みがないと判断できるのか等といった、解雇をとりまく様々な事情を考慮した上で、判断を行っているのです。
そのため、会社としては、職務能力の低い従業員がいたとしても、放置するのではなく、従業員の能力に応じた配置転換の打診などを行い、その従業員の適性が可能な限り活かせるよう配慮しなければならないのです。
⑵ 社会通念上相当といえるか否か
解雇という会社の判断に、客観的・合理的な理由が存在したとしても、それに加えて、当該解雇事由(本稿でいう勤務不良や勤務態度不良などの従業員の能力不足)に対して、「解雇」という手段をもって臨むことが果たして妥当なのかという視点が必要となります。
実際の裁判例では、労働者にとって有利となる事情も加味した上で、解雇に至るまでの手続きが妥当であったのか、他の労働者・他の事案と本件との均衡等、様々な事情を総合して、解雇を厳しく制限する傾向があるといえるでしょう。
会社として従業員の解雇を行う場合には、法律上の手続きを守ることはもちろん、会社の過去の懲戒事例などと比較した上で、今回の従業員に対する処分として何が適切なのかを検討しなければなりません。
3 まとめ
ここまで、能力不足の社員への対応について概要を説明してきましたが、実際に具体的な事情のもとで、どのような対処をして、どのような処分を下すべきかの判断は難しいケースが多いと思われます。
少しでも判断を迷われた場合には、安易に従業員に対する処分を決めてしまうのではなく、その前に一度、使用者側の労働事件に詳しい弁護士へ相談してみてください。
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