マタニティ・ハラスメント(マタハラ)

1.定義

マタハラとは、マタニティ・ハラスメント(Maternity Harassment)の 略の和製英語です。働く女性が妊娠、出産に伴う就業制限や産前産後、育児休業等によって業務上支障をきたすことを理由として精神的、身体的な嫌が らせを受けたり、解雇や雇止め、自主退職の強要、配転などの不利益や不 当な扱いを受けることを意味します。

2.最高裁判例

近時、マタニティ・ハラスメントを扱った最高裁判例ができましたので、ご紹介します。

事案は、「理学療法士で、病院の副主任(手当月9500円)として勤務していた女性が、妊娠したため、労基法65条3項(使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない)に基づいて、軽易な業務への転換を希望したところ、病院側は、同部署に既に副主任がいたことから、女性の副主任の地位を解いたうえで配転することにし、女性もこれに同意したが、育休復職後も元の副主任に戻さなかったことから、女性は副主任を解いた措置が均等法9条3項に違反するとして副主任手当と損害賠償支払を求めた」ものです。

これについて、1、2審とも、病院側の措置は女性も同意しており、人事配置上の裁量権の範囲内であり人事権の濫用にはあたらないとして、女性の訴えを棄却しました。これに対して、最高裁平成26年10月23日第一小法廷判決は次のとおり、判示しました。「一般に降格は労働者に不利益な影響をもたらす処置である」「女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として」均等法9条3項の「禁止する取扱いに当たるものとして解される」として、女性の請求を認めました。

また、例外事由として、「①自由な意思に基づいて降格を承認したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」「②軽易業務への転換に伴い副主任を免ずる措置を執ったことについて、その業務上の必要性の内容や程度・・・に照らして、同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき」の2点を挙げました。

本ケースでは、①は認められず、②についての再審理を高裁に命じ、これを受けて高裁は、②も認められないとして女性の請求を認める判断をしました(広島高判平27.11.17)。上記最高裁判決は、「妊娠中に負担の少ない業務に移したことを理由に、降格などの不利益処分をした場合、原則として違法」としたのです。

3.厚労省の解釈通達

(1)趣 旨

男女雇用機会均等法等において、事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠・出産・育休等を行ったことを理由として、当該女性労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないことを規定しています(同法9条3項等)。しかし、従来は、どのような状況であれば、妊娠等を「理由として」不利益扱いがなされたと判断されるのか必ずしも明らかでないという問題がありました。そこで、上記最高裁判決を受けて、厚労省は、マタハラに関する従来の解釈を改正する新しい解釈通達及び同通達に関するQ&A(妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A。以下「Q&A」といいます。)を出し、次のとおり、判断基準を明らかにしました。

(2)判断基準

ア.原則

まず、妊娠・出産・育休(以下「妊娠等」といいます。)の事由を「契機として」不利益取扱いが行われた場合、原則として妊娠等を「理由として」不利益取扱いがなされたと判断するとしています。

「契機として」いるか否かについては、原則として、①妊娠等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合、②1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている措置等(人事異動・人事考課・雇止め等)については、妊娠等の事由終了後の最初のタイミングまでの間に不利益取扱いがなされた場合、「契機として」いると判断するとしております。

イ. 例外

さらに本通達は、不利益取扱いがなされても違法ではない、2つの例外を示しております。

(ア) 例外①

「業務上の必要性から不利益取扱いをせざるを得ず、業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情が存するとき」上記例外の具体例として、「経営状況」「本人の能力不足等」を理由にする場合をあげております。具体的な考慮要素については、Q&Aをご参照ください。

(イ) 例外②

「契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、有利な影響の内容や程度が当該取扱いによる不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき」上記例外の具体的な考慮要素については、Q&Aをご参照ください。

(3)本通達等は、あくまでも行政指針にすぎず、直ちに裁判等の基準となるものではありません。

しかしながら、会社の労務管理の実務において非常に重要な指針となりますので、本通達等の判断枠組みを十分にご確認・ご理解していただいたうえで、適切に対処していくことが大切でしょう。

(4).マタハラ防止措置義務(改正均等法、改正育介法、改正派遣法)

さらに、2017年1月1日から施行される改正均等法、改正育介法・改正派遣法において、「マタハラ防止措置」が義務付けられることになりました。 事業主は、次の防止措置を講ずることが必要となります。

① 防止措置の方針を明確にし従業員に周知・啓発すること
② 相談窓口を設置し必要な体制を整えること
③ マタハラが起きた時は迅速かつ適切に対応すること
④ マタハラの原因や背景となる要因を取り除くこと
⑤ プライバシー保護や不利益取扱禁止措置を講じ、従業員に周知・啓発す ること等が求められる

詳細な防止措置の内容については、厚労省から指針が出ていますので、ご参照ください(「妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置の内容について」)。

4.まとめ

マタハラ問題に関しては、上記最高裁判決を受けて、行政通達や指針、法改正がなされており、その動向に日々注意し適切に対処しておく必要があります。マタハラ問題にお悩みの経営者の方は、同問題に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

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