退職者からハラスメント申告があった場合の企業の対応方法

1.はじめに

企業のハラスメント窓口には、すでに退職した方からハラスメント申告がなされる場合もあると思います。典型的な例としては、在籍中にハラスメント被害を受けたが、申告する勇気がなく、退職後に被害を申告してくる場合が考えられます。
では、このように退職者からハラスメント申告があった場合、企業としてはどのように対応すればよいでしょうか。

2.ハラスメント関連法における雇用管理上の措置

退職者から在籍中のハラスメント申告があった場合、すでに対象者は退職しています。しかしながら、在籍中のハラスメントにより申告者が被害を被っていた場合、企業としては、使用者責任ないし安全配慮義務違反が問われるおそれがあります。また、このようなハラスメント申告があったにもかかわらず、何ら対処をしないということになれば、職場環境の改善がなされず、社内の士気にも影響するだけでなく、他の従業員に対するハラスメント被害が発生するおそれも否定できません。
この点、ハラスメント関連法(労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、各施行規則等)では、事業主に対して次のような雇用管理上の措置がそれぞれ義務付けられており、ハラスメント関連指針による例示があげられています。退職者からのハラスメント申告との関係では、次のような措置が適すると思われます。

(1)被害者に対する配慮のための措置

事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪等が考えられます。

(2)加害者に対する措置

就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること、あわせて、事案の内容や状況に応じ、行為者の謝罪等の措置を講ずることが考えられます。

(3)再発防止に向けた措置

職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること、労働者に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意義を啓発するための研修、講習等を改めて実施することが考えられます。

3.調査対象期間

では、退職者からのハラスメント申告に対して、企業としては何年前まで遡って調査・対応しなければならないのでしょうか。
この点、法律上何年まで遡って調査・対応しなければならないという決まりはありません。個々の事案ごとに、関係者が在職中か否か、証拠収集が容易か否かといった要素を考慮に入れながら、職場環境の改善、再発防止等の趣旨に鑑み、何年前まで遡って調査・対応するべきか、検討することが必要でしょう。

4.調査結果等に納得しない退職者に対する対応

調査結果と是正措置を完了し、退職者に通知したものの、退職者が納得せず、執拗に企業に嫌がらせをしてきたり、SNSに会社を誹謗中傷するような内容の投稿をしてきた場合、企業としてはどのように対応すればよいのでしょうか。
この点、ハラスメント被害を申告してきている退職者であっても、不法行為に該当するような言動は違法となり、不法行為責任を負います。嫌がらせの内容にもよりますが、退職者の行為が、業務妨害等の不法行為に該当すると考えられる場合は、会社の代理人弁護士から申告者に対して、警告文を送る等の対応を検討する必要があるでしょう。
なお、退職者が通報窓口に執拗に連絡してくる等、業務に支障が生じた場合、通報窓口の受付業務の一部を代理人弁護士に委任することもできると考えられます。規定や誓約書にも、その旨定めておくとよいでしょう。

5.まとめ

上記のとおり、退職者からのハラスメント申告であったとしても、企業が何ら対応をしないということになれば、様々な不都合が生じるおそれがあります。個々の事案ごとに、関係者が在職中か否か、証拠収集が容易か否かといった要素を考慮に入れながら、職場環境の改善、再発防止等の趣旨に鑑み、調査・対応するべきか、検討していく必要があります。ハラスメント申告への対応についてお悩みの企業様は、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。

 

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