就活生からハラスメント申告があった場合の企業の対応方法
1.はじめに
企業へ就職を希望している学生等(以下「就活生」といいます。)にとって、就職活動はこれからの社会人としての人生を左右する重要な出来事です。また、企業にとっても良い人材を採用することができる重要な機会となります。
ただ、就活生と一言でいっても、まだ労働者ではなく、段階ごとに説明会参加者、インターンシップ参加者、内々定者、内定者等、様々な立場があります。また、企業も様々な場面で就活生と接することが予定されていますが、接し方によっては、就活生にとって不快な思いをさせてしまうこともあるかもしれません。
では、就活生から、ハラスメント申告がなされた場合、企業としてはどのような対応をすればよいのでしょうか。
2.厚生労働省の対応
近時、就活生へのセクハラ被害を重くみた厚生労働省は、2022年3月以降、就活生へのセクハラ対策を強化しています。
具体的には、企業に対して、就活セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化する旨の指導や、実際に就活セクハラを起こした企業に対する指導を徹底しています。
非労働者に対する言動に関しては、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント指針においても、望ましい取組の内容や方針を明確化し、示すことが望ましい旨を定めています。
3.企業の対応
(1)就活生に対する安全配慮義務
では、企業は就活生に対して安全配慮義務を求められるのでしょうか。
この点、就活生に対してではないですが、非労働者であるフリーランス(業務委託契約者)に対してハラスメントが行われた事案において、企業の安全配慮義務について判断した判例があります(東京地判令和4年5月25日)ので、ご紹介します。
会社の代表者が、業務委託契約を締結した原告に対し、セクハラやパワハラに該当する不法行為を行った場合に、会社に安全配慮義務を理由とする債務不履行責任が認められるかが、争点となりました。
この点について、裁判所は、セクハラ行為の内容と時期(一部、業務委託契約締結よりも前に行われていた)について認め、次のように判示しました。
「原告は、被告会社から、被告会社HPに掲載する記事を執筆する業務や被告会社専属のウェブ運用責任者として被告会社HPを制作及び運用する業務等を委託され、被告代表者の指示を仰ぎながらこれらの業務を遂行していたというものであり、実質的には、被告会社の指揮監督の下で被告会社に労務を提供する立場にあったものと認められるから、被告会社は、原告に対し、原告がその生命、身体等の安全を確保しつつ労務を提供することができるよう必要な配慮をすべき信義則上の義務を負っていたものというべきである。
しかるに、被告会社は、被告代表者自身による上記<略>のセクハラ行為ないしパワハラ行為によって原告の性的自由を侵害するなどし、上記義務に違反したものと認められるから、原告に対し、上記義務違反を理由とする債務不履行責任を負う。」
上記判例は、直接就活生に対して安全配慮義務を負うか否かを判示したものではありませんが、同じ非労働者であるフリーランスに対して、契約締結前でも安全配慮義務を負う場合がある旨を判示したものですので、参考にしてください。
このように、非労働者に対する企業の安全配慮義務は拡大傾向にあることから、就活生に対する安全配慮義務についても、企業としては注意が必要です。
(2)就活生からハラスメント申告があった場合の対応
もし就活生からハラスメント申告があった場合、企業としては、迅速かつ適切な対応をしなければなりません。具体的には、事前に定めておいたマニュアル(作成にあたっては、事前に専門家の協力を仰ぐべきでしょう)に従いながら、被害を申告している就活生の相談を聴き、事実関係の迅速かつ正確な把握と対応をしていく必要があります。企業は被害の拡大防止、再発防止に最大限の努力をしなければなりません。
また、企業で設置しているハラスメントの相談窓口の対象者に、就活生を入れておくことが望ましいでしょう。そして、対象者に入れた以上は、就活生からハラスメント申告があった場合、適切に対応するべき信義則上の義務が生じます。そのため、就活生に対してそのような相談窓口の存在を周知し窓口の利用を促すとともに、申告があった場合に備え、十分な準備をしておきましょう。
くれぐれも申告を受けた企業の対応が不適切であったり遅れたりすることで、被害を被った就活生やその関係者からSNS等で発信されたり、マスコミ等へ外部通報をされたりするといった事態が生じないように最善の努力を尽くしてください。
4.まとめ
就活生に対するハラスメント対応は、企業イメージを損なうだけでなく、企業の採用力にも大きく影響する重要な経営リスクといえます。就活生に対するハラスメント対応について、お困りの企業様はこの分野に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。